J最遅後半59分、清水GK六反が歴史的ヘッド弾

後半終了間際、ヘディングで同点ゴールを決める清水GK六反(右から2人目)(撮影・河野匠)

<明治安田生命J1:清水3-3神戸>◇第33節◇24日◇アイスタ

清水エスパルスが奇跡の同点劇を演じた。ヴィッセル神戸に2点追う展開から3-3に追い付いた。退場者2人、負傷者2人を出す大乱戦の中、GK六反勇治(31)が「ロスタイム14分」に左CKからヘディングで同点ゴールを挙げた。GKの得点はJ1では22年ぶりで、ヘディングでは初。Jリーグ史上最遅となった1発で引き分けに持ち込み、23日に死去した久米一正副社長兼ゼネラルマネジャー(GM、享年63)に勝ち点1を届けた。

荒れに荒れたホーム最終戦で奇跡が起きた。清水は1点を追う後半ロスタイム「14分」。左CKのチャンスを得ると、GK六反は迷わずゴール前に駆け上がった。「迷惑をかけたので何とかしたかった」。自身の判断ミスで2失点していた守護神は無我夢中だった。MF石毛の鋭く曲がったボールに反応し、J1史上初のGKヘディング弾。劣勢からドローに持ち込む殊勲の一撃に満員のスタンドも総立ちになった。

執念だった。六反は仲間への思いを口にした。「自分がしっかりしていれば。けが人も出ていなかった」。同点で迎えた後半7分、ヘディングで追加点を許したシーンは日差しで目がくらみ反応が遅れた。同17分には左クロスがそのままゴールへ。劣勢の展開をはね返すべく体を張ったMF河井とDF立田はロスタイムに接触プレーで負傷退場し、そのまま病院に緊急搬送されるけがを負った。

相手2人が退場し、味方も2人負傷。主審の判定に端を発し、両チームの選手が入り乱れての騒ぎとなり、ロスタイムはけが人もあって実に18分50秒に及んだ。それだけに96年以来の「GK弾」にも表情は晴れなかった。ただ、清水にとっては、執念で積み上げた勝ち点1は大きな意味がある。23日に久米GMが大腸がんのため、死去した。この日は故人をしのび、喪章を巻いてプレー。生前、優しい言葉でいつも励ましてくれたという久米GMにささげるゴールでもあった。

六反は「久米さんが決めさせてくれたと思います」と、人目をはばからずに涙を流した。クラブは15年に初のJ2降格。J1に復帰した昨季も最終節で残留が決まるなど、近年は低迷が続いていた。だが、今季は1試合を残し、13年以来の1桁順位を狙える7位につけている。「今日の試合は財産になる。これからもっとエスパルスは強くなると思う」。土壇場でのゴールは簡単に勝負を捨てなくなった成長の証し。名門復活を目指す清水にとって、忘れてはいけない一戦になった。【神谷亮磨】

▼最遅ゴール 六反の得点時間は後半59分。記録上は「90+ロスタイム14分」となる。Jリーグでロスタイムが表記されるようになった10年以降ではJ1史上最も遅い時間の得点となった。これまでの記録は16年9月25日横浜戦での川崎FのFW小林悠で後半55分。

▼GKゴール 清水GK六反が24日の神戸戦でゴール。Jリーグ公式戦でのGKの得点は、熊本GK佐藤が17年3月12日の山形戦で記録して以来、史上9例目。J1リーグ戦に限ると、浦和GK田北が96年11月9日の横浜F戦でマークして以来、22年ぶり2例目。田北はPKでのゴール。J1でGKがヘディングで得点は初めて。

◆六反勇治(ろくたん・ゆうじ)1987年(昭62)4月10日、鹿児島県生まれ。熊本国府高を経て06年に福岡加入。横浜、仙台でプレーし17年に清水加入。15年の東アジア杯で日本代表初選出。188センチ、80キロ。J2通算23試合、J1通算131試合出場1得点。血液型A。