高校サッカーにみちのく旋風 担当記者が緊急座談会

東福岡戦でゴールを決めた尚志DF高橋

<みちのくプラス!!>

全国高校サッカー選手権で「みちのく旋風」が勢力を増している、青森山田、秋田商、尚志(福島)と18大会ぶりに東北勢3校が8強入り。12日の準決勝(埼玉スタジアム)は、青森山田対尚志の東北対決になった。準決勝以降では58大会ぶりの「みちのくダービー」実現で、2大会ぶりに東北勢が14日の決勝に進むことも決まった。「みちのくプラス!!」では、「みちのく旋風」の舞台裏を明かす緊急座談会を開催。8強進出の3校をそれぞれ担当した記者が勝因分析、とっておき話などを紹介します。【取材・構成=中島正好、下田雄一、鎌田直秀】

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<キーマン>

中島 高校サッカーの東北勢快進撃は、いい意味でうれしい悲鳴だな。仙台育英(宮城)も初戦を突破したので、東北勢だけでここまで11勝。忙しくて正月気分に浸れなかったけど、記者冥利(みょうり)に尽きる。ここまでの勝因はどう分析する? まずはキーマンを挙げようか。

下田 尚志には、スーパーサブならぬ「スーパーサイヤ人」ことDF高橋海大(3年)がベンチに控えていることが大きい。金星となった3回戦の前年度覇者・前橋育英(群馬)戦では、後半から出場し先制ゴールを演出。本職サイドバックではなくFW起用も驚きだった。持ち味の縦ドリブルを意図的に仕掛け、相手ファウルを誘い、ペナルティーエリアぎりぎりの場所でフリーキックを奪った。仲村浩二監督(45)が「直感だった。彼の身体能力だったり野性の勘に賭けた」と言う通りの采配が的中。高橋は「『お前が試合を決めろ』と送り出されたので、ニックネームのスーパーサイヤ人のように何事にも恐れず、挑戦する姿勢が出せて良かったす」としてやったりの表情でした。

鎌田 3試合で11得点の青森山田は多彩な攻撃オプションを持ちます。まず、ロングスローの“好投手”を今大会から主力に抜てき。15年度の原山海里(現東学大3年)と16、17年度の郷家友太(現J1神戸)に続く「3代目ロングスロー・ブラザーズ」MF沢田貴史(3年)です。“捕手役”として頭で競るのは192センチDF三国ケネディエブス。周りでこぼれ球を狙うのはMF檀崎竜孔(3年)、MFバスケス・バイロン(3年)。得意のドリブル突破で密集に侵入し、PK奪取も狙います。パスセンスあるMF武田英寿(2年)は少し遠めで待つ。中央にはFW佐々木銀二(3年)、ファーサイドにはDF二階堂正哉(3年)が定位置。役割分担を貫くことも強さの秘訣(ひけつ)。矢板中央(栃木)との準々決勝では2得点に直結しました。

中島 秋田商は準々決勝で涙をのんだけど、1回戦の四日市中央工(三重)戦でFW長谷川悠(3年)の秋田勢6大会ぶりゴールから「秋商旋風」の風上となり、「みちのく旋風」につないだ。公立だが部員46人中11人が東京、福岡などの出身者で、「選手権に一番出場(44回)しているから(GK山口雄也=2年、東京・足立区)」と、個々で食事付きの下宿を探してまで秋田に来た。スカウトの目に留まる選手はいないが、全員サッカーで4試合で2失点の堅守が光った。

<采配>

中島 監督の手腕も見逃せない。カラーを教えて。

鎌田 黒田剛監督(48)は16年度の優勝以上に強気な発言が目立っています。昨年度の選手権は3回戦、昨夏の全国総体は2回戦敗退。高円宮杯U-18プレミアリーグEAST(プレミアE)でも優勝争いをしながら2位。「プレミアのプライドを持たないといけない」「プレミアに参加しているチームの代表として」「16年度のチームに似ている。必ず王座を奪いたい」。学校創立100周年での2度目頂点に、使命感を抱いているようです。

下田 尚志は仲村監督の采配がズバズバはまって痛快だ。選手権では過去、PK決着となったゲームが6試合。うち4試合で辛酸をなめた経験から「最後のPKも含めてトータルで勝つこと」をテーマに、勝ち上がってきた。神村学園(鹿児島)との1回戦はロスタイムに同点とされると、正GK森本涼太(3年)に代わってPK職人のGK鈴木康洋(2年)を投入し、2人目を止めた。この交代カードが選手にPK戦を想定させ、心の準備をした5人がミスなく終われたことが勝敗を分けたと思う。「仲村マジック」に巧みなメンタルコントロールを垣間見ている。

中島 秋田商の小林克監督(45)はコメント力があった。勝つたびに昨夏の「金農旋風」と比較されたけど、ロスタイム弾で追い付きPK戦で勝利した龍谷(佐賀)との3回戦では、「野球のように満塁ホームランや逆転ホームランはないけど、コツコツと粘り強くやって良かった」と試合内容を自ら野球にたとえてくれた。さらに「カナノウは9人で戦いましたが、11人では無理なので控えも準備させた」と続け、「夏に金足農業さんがすごい試合をやったので、うちもそういうエネルギー、パワーがあるんじゃないかと思っていた」と受け答えが絶妙で、取材陣を喜ばせてくれた。

<注目選手>

中島 青森山田と尚志にはJ内定選手もいるけど、気になる選手はどうだい?

鎌田 カタカナ名の活躍も、最近は目立ちますね。青森山田では、DF三国の父はナイジェリア人。兄スティビアエビス(現順大2年)の背中も追い、中学から青森山田の門をたたきました。中学はFWで、高校入学後にDF転向。昨年はU-18日本代表としてポルトガル遠征に参加するなど、常に世代別代表で活躍しており、J2福岡入りが内定しています。バスケスはチリ出身。左足のシュートは強烈です。外国人枠になるためJリーグ入りはなりませんでしたが、東北社会人1部いわきFC(福島)に内定。Jリーグ昇格に挑む一翼を担うだけでなく、本人は海外移籍、チリ代表入りにも意欲満々です。

下田 尚志はレフティーDF沼田皇海(すかい)を挙げる。前橋育英戦では前出のフリーキックで、名前のごとく「スキッ」と左足でゴールを奪い、貴重な先制点。昨年9月にJ1磐田に練習参加し、仲村監督の順大時代のライバルだった名レフティー名波浩監督(45)の元で武者修行した成果を発揮した。

中島 選手の素顔を知るのも面白かった。龍谷とのPK戦で2本を止めた山口はGKの楽しさを聞かれ、「どんどんシュートを打って欲しいと思うくらい、自分はMだと思う」と迷言? を残した。スタンドにはなまはげも応援に駆けつけていたが、DF山本翔太(3年)の伯父が「なまはげ館(男鹿市)」の関係者だった。

鎌田 青森山田の檀崎はJ1札幌に内定。青森山田中で全国制覇し、2大会前は唯一の1年生レギュラーとして初優勝を経験しました。高校生世代で最高峰に位置づけられるプレミアEでも、全18戦で9戦連発を含む15得点。得点王に輝いたゴールへ積極果敢な姿に広島、浦和、札幌を率いてきたミハイロ・ペトロビッチ監督(61)もほれ込んでいます。

下田 イケメン檀崎が頭を丸めて選手権に臨んでいる。プレミアEの清水戦で敗れチャンピオンシップ進出を逃し、責任を取ってバリカンを入れたと言われているが、真相は違うらしい。聞いたら「優勝したら話します」と。短髪も似合っているけどね。

中島 今年の東北スポーツ界も新春から縁起がいいよ。女子も常盤木学園(宮城)が13日の決勝に進出した。昨年は大学野球で東北福祉大の日本一、甲子園で金足農の準V、サッカーもJ1仙台の天皇杯準Vと明るい話題が続いた。高校サッカーはみちのく勢の男女アベックVを信じて、3連休まで総力取材で休みなしだな。