スマホが道具の一線超えたら危ない/セルジオ越後

ジュニア世代とデジタル機器の関係について熱く語ったセルジオ越後氏

<セルジオ流Education>

今やスマホやタブレットは生活の“必需品”といわれますが、ジュニア世代とデジタル機器の関係もより親密になっています。子供たちの使用をどこまで許容していいか、迷っている大人も少なくありません。日曜日の「ニッカンジュニア」はサッカー評論家のセルジオ越後氏(73)が、子育て世代と指導者へのメッセージを送ります。デジタルの便利さや楽しさを認めつつ、あえて副作用に警鐘を鳴らし、ルールづくりを提案します。

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デジタル機器は確かに便利で、情報豊か、素晴らしいものです。ただ、副作用もあると気づかないのは危険だと思う。例えば、現在は個人情報の扱いが厳しくなり、人の口から漏れることは少ない。漏れるのはデジタルからだ。以前は対話や電話=声でコミュニケーションしていたのが、メールなど文字が多くなった。そうして、人の声を忘れてしまうことも、「オレオレ詐欺」などにつながる一因なのかもしれませんね。

ジュニア世代は依存性になってしまう恐れもあるでしょう。ゲームにしても、以前はゲームセンターやテレビゲームなど、場所も時間も限定されていた。スマホなどは部屋に持ち込んだら無制限。それが魅力であり、危うさです。点数やステージなど数字を争うゲームは、1回では終わりません。自分がいったん達成した数字に到達しないと気が済まないですから…。

遊びから学ぶこともあるし、確かにゲームは楽しいですよ。大人でさえ、はまってしまいます。LINEでは、伝える内容よりも、「いかに早く返信するか」というゲーム感覚になっている場合もある。「スマホがなくなったら、私、死んじゃう」なんて平気で言う人だっています。

電車内などで親が子どもを静かにさせるため、タブレットで映像を見せていることがあります。周囲への気遣いなのでしょうが、これを家庭内でやると、親子の会話が減ってしまう。子どもは映像が止まった時にしか親に声をかけない、なんてことになります。

デジタル機器の中で育ってきた世代は、その素晴らしさに「欠点がない」と思っているのでは? だからこそ、僕はあえて副作用について強調します。人間の道具ならいいけど、その線を超えて人間を縛ったり、無駄に時間を奪うようになったら危なくなると。

子どもの頃、親に「誰と遊んでもいいけれど、必ず1度、うちにその友だちを連れてきなさい」と言われました。親としては子どもがどんな友だちと遊んでいるのか、何か危険なことに巻き込まれる可能性はないか、気にしていたんでしょう。今はデジタルでつながっている“友だち”がいる時代。子供たちに親が知らない“友だち”がいて、その中には大人もいるかもしれない。悪意を持って接触してくるケースもあるかもしれない。

僕の私見ですが、15歳未満にスマホを無条件に与えることは賛成できません。連絡用なら電話機能だけでいいし、ゲームやインターネットは自宅=家族の目の届く範囲で楽しめばいいでしょう。もちろん、家庭によって、環境によって事情は違いますから、家庭ごとに独自のルールをつくってもいいと思う。無制限に「使いたい放題」というのが、最も危険だと感じます。喉が渇いた時だけ蛇口を開いて水を飲むならいいけど、24時間蛇口を開きっぱなしというのはね…。

ルールをつくる時、互いに「同意」することが必要です。上から勝手に押しつけても、そんなルールは守られません。ルールの必要性と整合性を相手に納得させることです。そのためには「分析」。例えばスマホの機能別に、それぞれどのくらいの時間を費やしているか? それは勉強のためか、遊びのためか? 本当に必要な使い方なのか? ジュニア層にとってスマホやタブレットは、ただの玩具=暇つぶしになっていることもありますから、互いに、冷静に使い方を分析してみてはどうでしょう。

もちろん、学校や地域によって規則やガイドラインはあるでしょうが、デジタル機器は進化が速すぎて、国や社会のルールづくりが追いついていない一面があります。同時に、日本は経済優先ですから、売り上げのためか、ジュニアのスマホ所持を促す印象を与える宣伝などもあります。デジタルという“友だち”から子どもを守るのは、親や指導者の役目であるともいえるでしょう。

そして、ルールは状況の変化によって見直されるべきです。法律や条例、企業のマニュアルもサッカーのルールも、時代とともに見直され、必要に応じて変えられています。家庭や学校、サッカースクールや塾の独自ルールも、時々、見直すことで、より守りやすくなると思います。

◆セルジオ越後 ブラジル・サンパウロ生まれの日系2世で18歳で同国名門コリンチャンスとプロ契約。ブラジル代表候補にもなった。72年に来日。78年から「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から過去に「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。