いろんなスポーツを経験させよう/セルジオ越後

テニスを楽しむセルジオ越後氏

<セルジオ流Education>

いよいよ大型連休が始まりました。スポーツをするにも心地よい季節です。子育て世代の中には、自分の子にスポーツをさせたいと思っている方もいらっしゃるはず。日曜日の「ニッカンジュニア」はサッカー評論家のセルジオ越後氏(73)が、自身の経験から人の育て方を語ります。元プロサッカー選手の同氏ですが、子ども時代はバレーボールもバスケットボールも得意だったとか。さまざまな可能性を与えることが大切だと話します。

      ◇       ◇

わが子を野球の大谷翔平やサッカーの中島翔哉のようにしたい。テニスの大坂なおみみたいになってほしい-。そんな夢を持っている子育て世代もいるでしょう。一方、健康や友だちづくりのためにスポーツを始めさせたいと、思っている方もいるはずです。ただ、なかなか親の思い通りにいかないこともある。

僕だって子ども時代にサッカーを始めたころ、親に反対されました。父は僕に剣道をやらせたがったのです。「サッカーのヘディングは頭(脳)に悪い」と言われて、僕は「剣道の面の方がよっぽど痛い」なんて思ったものですよ。

まずはなんでも「味見」をさせるといいでしょう。テレビではなく、生の試合を見に行って、それを経験できるところに行ってみる。いろんな遊び、いろんなスポーツを試させ、可能性を広げてあげてください。理屈じゃない。食べ物と同じで、いろんなものを食べさせることです。

残念ながら日本は1つの競技に偏りがちです。学校の部活は1つにしか入れないことが多い。運動神経は素晴らしく、サッカーはとてもうまいのに、野球はさっぱりという子もいるし、その逆もある。1競技に集中することで成長するのもいいことですが、1競技に「拘束する」というのは感心しません。

ブラジルでは子どもはいろんなスポーツをやる。僕もサッカーだけでなくバレーボールもバスケットボールもやった。季節ごとに楽しむスポーツが変わったりもした。スポーツは本来自由なもので、例えば野球に興味を持てなかったら次はサッカー、テニス…などと、選択肢を広げていくうちに、子どもが面白さを見つけていきます。同時に僕はバレーではジャンプ力、バスケでは相手をブロックすること、ハンドボールではフェイント、テニスではフットワークと、サッカーにも生かせる要素を他競技から自然に学びました。

管理されたスクールでは年齢別に指導されることが多いですね。でも、同年齢の子より、年上の子とプレーさせた方が、上達が早いものです。また、指導者の下では「練習をこなす」方向になることもあるし、監督がついたら「レギュラーと補欠」に分けられることも。子どもだけで遊ぶ中でのスポーツなら、年の違う子ともプレーできるし、一方的に補欠にされることもないでしょう。スクールとは違った利点もある。

可能性をたくさん与えるのが教育だと思います。

スポーツだけでなく、旅行や動物園に連れていくことでも、子どもの好奇心は刺激されます。絵本の中でゾウやキリン、消防車や新幹線を知っていても、本物を見たらその迫力に興奮します。子どもが夢中になるものを1つでも多く見つけたらいいと思います。

そんな中、子どもは飽きっぽい、浮気っぽいということも理解し、見守ってあげてください。

幼児は手にしたものをなんでも口に入れようとしますよね。まず口で感触を覚えて、その後に口に入れていいもの、いけないものという知識がついてくる。まず見たり経験したりして、興味を持ち、その後に言葉や理屈が入ってきます。

もちろん、家族の影響は大きいです。親が卓球をしていたから卓球、兄がサッカーをしていたからサッカーを始めるという形がある。女の子が母親の口紅やハイヒールを使いたがるのは古今東西共通。年上の人を見て、まねをして、学び、育ちます。親がスポーツに興味がないと、子どもも興味を持ちにくい。学問も芸術でも同じです。

子どもは「空っぽのコンピューター」みたいなものですよ。プログラムしなかったら、ただの機械。プログラムするほど、優秀なコンピューターになる。どうプログラムするか=どう情報を与えるか次第。海外に行ったら、子どもはすぐに外国語をきれいな発音で覚えますが、大人は難しい。空っぽのコンピューターと、既にプログラムされたものの違いです。たくさん情報が入る、吸収できる時期に、たくさんのことを経験させた方がいい。

仮にスポーツがうまくいかなくても、勉強に向いていたら、将来は博士になるかもしれない。1つの競技、1つの道にこだわる必要はないと思います。「二刀流」でも「三刀流」でもいいではありませんか。

◆セルジオ越後 日系2世で、18歳でブラジルの名門コリンチャンスとプロ契約。同国代表候補にもなった。72年に来日、藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。78年から「さわやかサッカー教室」を始め、開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。