「教える」前に「楽しませる」/セルジオ越後

今日はこどもの日。生後6カ月ごろのセルジオ越後氏の豊かな表情を特別に掲載します!

<セルジオ流Education>

大型連休も終盤、家族や仲間でスポーツを楽しんだ方も多いでしょう。日曜日の「ニッカンジュニア」はサッカー評論家のセルジオ越後氏(73)が登場。同氏は元プロサッカー選手として、数え切れないサッカー教室を行い、サッカーの魅力を伝えてきました。「どうやって子どもにサッカーを教えればいいのか?」という、子育て世代と指導者の疑問に、まずは「教える」より前に「楽しみながらやらせる」という方向性を提案します。

      ◇      ◇   

僕の経験からは、小学校に入る前の子どもにはスポーツを「教えよう」とするよりは、「遊びながら、楽しませながら、覚えさせよう」くらいの気持ちの方がいいと思います。「教える」は言葉、理屈が先行しがちです。まだ大人の言葉を覚えていない子どもには、「見て、まねしてもらう」ことです。

小学生になれば言葉で理解するようになりますが、日本では「授業」「レッスン」になってしまいがち。みんな同じように教科書通りの指示を受けると、子どもは「できなかったら、怒られる」と萎縮してしまうこともあります。

教えることは難しい。ただ、「サッカーをさせる」ことは工夫次第。「サッカーって面白いなあ」と感じさせればいいんです。

例えば、初めてサッカーに触れる場合、運動会で使う玉入れのカゴを倒して、ゴールに見立てて「球をあそこに蹴って、入れてごらん」から始めたりもしました。ある時は「僕は怪獣だあ」と大げさに言い、ボールは爆弾、ゴールは敵の基地という想定にし、「先に怪獣をやっつけて、相手の基地に爆弾を蹴り込んだ方が勝ちだぞ~」と言ってみる。チーム名も子どもたちに付けさせる。怪獣の名や仮面ライダー、アニメの主人公、アイドルの名前など、子ども同士で話し合って盛り上がります。

僕も「先生」と呼ばれていたけど、「『おじさん』、でいいよ」と。子どもは大人が一緒に遊んでくれるだけでうれしいのです。

ルールなんて、関係ありません。ピッチのラインなど書かず、集まった保護者たちに囲んでもらい、外に出そうになったボールを蹴り返してもらうことも。体格や体力の違いがありますから、子どもがちょうど楽しめる広さでやることも、大事でしょう。

その中で、僕がキックなどプレーを見せます。子どもは同じことをやろうと、試します。うまくいかないと、工夫をします。そうして身につけると、子どもは自分で結果を出したという喜びを感じます。

ちょっと変わった技術を見せると、子どもは無邪気に「教えてよ!」と言います。僕が「嫌だよ」と答えると、「じゃあ、もう1回見せてよ」となる。よくスポーツでは「技を盗む」というけれど、見て、まねて、身につけたら自分のものです。僕だって先輩からいろんな技を盗んできた。一方で「エラシコ(越後氏が考案したフェイント)」は、誰にも教えていないのに、今では多くの選手がやっています(笑い)。

1つの技を習得したら、その技を何度繰り返しても意味はありません。あらたに「できない技術」に取り組めば、スキルは上がります。右足でできたら、次は左足でできるように…とかね。キックもヘディングもトラップも、そうしてレパートリーを増やしていく。それが個人技です。

どの技術を、どの順番で学ぶかは個人差があるものです。同じ物語の読書感想文を書かせても、子どもからは2つとして同じ文章は出てこないでしょう? みんなが同じことをやっていたら、まるで「訓練」みたいです。

どうしたら早く上達するか? 本人より上手な相手と接することです。少年サッカーチームで上級生に1人でもうまい子がいると、周囲もうまくなっていくんですね。下級生も自然とうまくなり、その循環が続きます。女子の澤穂希さんも、かつては男子とともに練習していました。久保建英がスペインに行かなかったり、同世代とだけプレーしていたらどうなっていたでしょうか? 

以前にもお伝えしましたが、同級生、同い年だけと接していては、学ぶものに限界があると思います。少子化の現代だからこそ、昼休みの校庭にいろんな学年が混在し、球を蹴ったり投げたりすることは、大きな学びにつながるはずです。

◆セルジオ越後 ブラジル・サンパウロ生まれの日系2世で、18歳でブラジルの名門コリンチャンスとプロ契約。同国代表候補にもなった。72年に来日、藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。「さわやかサッカー教室」は開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。17年旭日双光章を受章。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。