ブラジル流練習にサッカー上達ヒント/セルジオ越後

セルジオ越後氏

<セルジオ流Education>

日曜日の「ニッカンジュニア」はサッカー評論家のセルジオ越後氏(73)が、子育て世代と指導者へのメッセージを送ります。今回は同氏の経験に基づく、ブラジル流のサッカーの身につけ方、練習法などの話です。多くのスーパースターを輩出し、「サッカー王国」と呼ばれる同国の強さのルーツ。日本とは環境など異なる面はありますが、未来の日本代表を目指す子どもたちへ、新たなヒントになるかもしれません。

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ブラジルでは子どものころから、みんな遊びでサッカーを始めます。年齢は関係なく、近所の子ども同士でボールを蹴る。はだしでも、雨の中でも、でこぼこの土の上でもやる。だからボディーバランスも自然に身につきました。初めてサッカーシューズを履き、平らなグラウンドでプレーした時には、すごく楽に、簡単に感じたものでした。

日本では公園で子どもが自由に球技を楽しむ姿が減ったように思います。都会には広い公園も少ないし、ボールの使用が制限されていることもある。すべて学年で区切られる学校教育の影響か、上の学年とともにプレーする機会も少ない。サッカーなど接触の多い競技は、体格差のある子どもを一緒にプレーさせるのは危険だと、みられているのでしょうか?

日本ではミニゲームや紅白戦で、0-0でも決められた時間になったら、終わりになりますね。得点は求められていません。ブラジルでは「どちらかが3ゴール挙げるまで」とか、「両チーム合わせて12得点になるまで」と、時間ではなく得点を決めてやります。得点が決まらないと終わらない。ゴールするための工夫を求めるのです。

中にはゲーム形式が楽しくて、終わりになるのがいやで、「あと1点」になったらわざと得点を狙わず、ボールを回す技を競ったりもしますけど…。

プロの練習でも「1人20本ずつ」なんてシュート練習はありません。「ハットトリック、3得点決めるまで」です。もちろん、GKやDFがちゃんと守った状況=より実戦形式で。枠に飛ばなくてもゴールに入らなくてもシュート1本…ではないのです。日本ではシュートチャンスによく「打て!」と声がかかりますね。ブラジルでは「入れろ!」です。子どももプロも、どんな形でもゴールを決めるという意識がすり込まれています。

日本では「練習したら、上手になる」なんてよくいわれますが、ブラジルでは「上手になったら、練習できる」と言います。個人技が上達したら、チーム練習に入れるという意味で、練習とはチームに合わせることなんです。そのチーム練習で、守備についての指導はあります。一方で、攻撃は個人技や想像力が大事、組織的にしたら相手を守りやすくさせてしまう、ともいわれます。

子どものサッカーでは、独自のルール変更もありますよ。戦力に合わせて11対11から11対10とハンディをつけたり、ずばぬけて上手な子にはシュートを制限したり、トレード=対戦相手との選手の交換など…。チーム力を拮抗(きっこう)させるためで、その方が子どもは本気になり、スポーツの醍醐味(だいごみ)を味わえるからです。

また、ブラジルではプロ選手もフットサルを当たり前のようにやる。フットサル=サッカーの狭い局面。だから、ロナウジーニョらのように狭い局面にも強いんです。日本選手とは差がありますね。Jリーガーはどのくらいフットサルをやっているのかな? それこそ遊びのシュート練習では狭いところに当てる、ポストやバーを狙って距離感を養うこともします。

日本とは環境や意識の違いはありますが、何かのヒントになると思います。

子どものサッカーに大人が入っていってもいいと思ってます。親子で、家族でサッカーを楽しんでください。仮に、お父さんが華麗なドリブルを見せられなくても、大丈夫です。例えば、ボールを高く蹴り上げて見せてあげてください。子どもというのは、自分のパワーではまだできないことにあこがれます。「パパ、すごい!」となる。迫力あるものに弱いです。

もちろん、これを高校生相手にやったら、ドン引きされますが…。要は子どもに合わせて手加減ばかりする必要はありません。

◆セルジオ越後 ブラジル・サンパウロ生まれの日系2世で、18歳でブラジルの名門コリンチャンスとプロ契約。同国代表候補にもなった。72年に来日、藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。78年から「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。17年旭日双光章を受章。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。