優秀なリーダー育ってほしいな/セルジオ越後

出番やポジションを子どもだけで決めさせる

<セルジオ流Education>

日本も世界も、政治も経済もサッカー界も、リーダーのあり方が取りざたされている昨今です。日曜日の「ニッカンジュニア」はサッカー評論家のセルジオ越後氏(73)が登場。元プロ選手として日本の子どもたちを温かく指導してきた経験と、辛口評論家としての両面から、子育て世代と指導者へメッセージを送ります。今回は、その経験の中から、団体生活から生まれるリーダーシップ、役割分担などについて語ります。

   ◇   ◇

最近、国や企業にちゃんとした後継者、次世代リーダーが生まれるのか、ちょっと心配になることがあります。みんなが個人主義になって、機械やデジタルがパートナーになり、そんな中でカリスマ性のあるリーダーが生まれるのか?…と。リーダーシップとは団体生活、団体行動、人と人とが触れ合う人間社会の中で生まれるものですから。

現在の教育現場はさまざまな観点から、大人による管理が徹底されています。でも、たまには子どもたちだけで何かをつくる、何かを決めることを任せてみることもいいと思います。

例えば、サッカー教室や練習試合。出番やポジションを子どもたちだけで決めさせてみることがあります。多少の口論には目をつぶって聞いていると、みんな言いたいことを言い始めるから、すぐには決まらない。中にはけんか腰の口調の子も出てきます。

でも、それではいつまでたってもサッカーができませんから、そのうちに何とかまとめようとする子、厳しい言葉を発する子をなだめる役、言いたいことを言えない子に「お前も言えよ」と促す係…。さまざまな役割分担が生まれてくる。こうした中で自然に自分の立場や役割を感じ取り、リーダーシップや競争を学んでいくことがあります。

先生や監督といった大人が出番を決めてしまえば、それは互いに楽かもしれません。すると、子どもは出番が欲しいから大人に気に入られたい。何でも「はい」と答えるこなし上手、従うことばかりになってしまいがちです。

家庭内でも、兄弟でテレビのチャンネル争いをしたとします。そこで、父親がテレビを消す。母親が「あ~あ、2人ともテレビを見られなくなっちゃった」。兄弟で話し合って、何の番組を見るかを決めさせ、仲直りしたらテレビをつける。日本では「お兄ちゃんなんだから、我慢しなさい」などと、親が上の子に譲歩を求めることがありますね。もちろん、上の子が下の子をいたわることを教えるのは大事です。それでも、毎回それでは、下の子は「駄々をこねれば、親が守ってくれる」と覚えてしまう。子どもは大人が思うよりも、親の反応を細かく学習しています。場面によっては、子ども同士で解決させてはいかがでしょうか。

学校の授業では教科書が最優先でしょう。「1+1=2」に、生徒が「なぜですか?」と尋ねたら、「そういう決まりだから」となる。生徒は怒られたくないから、工夫します。「分かったか?」と言われて「はい」と元気に答えて、それ以上の主張はしない。従った方が楽なんですね。一方で家庭の中では、分からないことは素直に「分からない」と言います。大人で例えれば「会社の上司には逆らわないけど、夫婦げんかはする」といったところでしょうか…(笑い)。ブラジルもドイツも英国も、学校でやっていることは大して変わらないようです。だからこそ、学校教育と同時に家庭教育、社会教育が大事なんですね。

11年にエジプトでは、SNSで呼びかけて動員した大規模デモから革命が起き、政権が代わりましたが、それを生かすリーダーが足りずに、尻すぼみになりました。世界の中でも、本当のカリスマが少なくなっている気がします。SNSで呼びかければ人は集まるけど、リーダー不在、仕切る人がいない傾向です。ハロウィーン時の混乱もその1つかもしれません。デジタル依存の“副作用”かもしれませんね。

日本の、世界の未来と平和のためにも優秀なリーダーが多く育ってほしいと思います。もちろん日本サッカー界でも…。

◆セルジオ越後 ブラジル・サンパウロ生まれの日系2世で、18歳でブラジルの名門コリンチャンスとプロ契約。同国代表候補にもなった。72年に来日、藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。78年から「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。17年旭日双光章を受章。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。