「みんな持ってる」には理屈で戦う/セルジオ越後

小学生時代のセルジオ越後氏と愛犬ジャック。ともに走ったり、ボール遊びをしたりした「僕のフィジカルコーチ」

<セルジオ流Education>

日曜日の「ニッカンジュニア」はサッカー評論家のセルジオ越後氏(73)が、子育て世代と指導者へのメッセージを送ります。今回のテーマは、お金や物の価値を子どもたちに伝える必要性についてです。時代とともに物や情報が豊かになり、便利になっていく日本では、多くの物が手に入りやすくなりました。だからこそ、お金や物を大事にする気持ちを育んでもらいたいと、提言します。

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日本の学校にはよく「落とし物・忘れ物コーナー」みたいなものがありますよね。帽子や手袋、ペンケースなど、いろんなものが置いてある。中には長い間、誰も引き取りに来ない物も多いようです。子どもが物をなくしても、すぐに新品を買ってもらえるんですね。日本は物が豊かだし、最近は共働きも多くて、経済的にそれが可能な家庭も増えたのでしょう。

ただ、「なくしたら、新しい物を買ってもらえる」という習慣や「使い捨て文化」は、子どもの甘えにつながる可能性もあります。お金や物の価値を知らないまま育ってしまうことにもなりかねません。

僕が子どもの頃にサッカーを始めた時、親はサッカーシューズを買ってくれませんでした。子どもは飽きっぽいから、サッカーをいつまで続けるかわからないからです。だから、僕ははだしで走り、ボールを蹴り続けました。

1年後、両親がシューズをプレゼントしてくれました。この時の感動は忘れられません。高級なものじゃなくても、新しいシューズというだけでよかった。1年間我慢したことも、喜びを大きくさせたのだと思います。ちょうどサッカーも少しずつうまくなり、夢中になり始めた時期です。当然シューズをはけば走るのも蹴るのも、はだしよりはるかに楽で、翌日からはさらにサッカーに熱中するようになりました。

子どもが物を欲しがる時の“殺し文句”がありますね。「みんな持っているから」「みんなやっているから」という言葉です。これは今も昔も、日本もブラジルも同じ。「みんなが…」と言えば勝てると、子どもは無意識に知っているんです。親が「うちの子だけ持っていなかったらかわいそう」とか「他の子と遊んでもらえなくなるのでは?」と思うことを、「うちだけ持っていなかったら恥ずかしい」というプライドが働くことを、いつの間にか感じ取っているんです。

現在ならスマホなどについて「みんな持ってる」と言われると、大人も甘くなりがちですよね。

この“魔法の言葉”に対して、ブラジルでは親が理屈で戦います。例えば「みんなが持っているから欲しいの? もし、みんなが持っていなかったら、いらないものなの?」。欲しがる物が本当に必要なものなのか、問います。「○○ちゃんは持っている」に対しては、「それなら○○ちゃんの家の子になって、買ってもらえば? でも、○○ちゃんの家の子になることを断られたら、どうする?」などと言います。

なぜ欲しいのか、何のために使いたいのか、子どもにちゃんとした理由があればいいのですが…。

ある大学で聞いた話で、近年の大学生は企画書やマニュアルを与えられれば、優秀にやり抜くそうです。社会人になっても、企画書が与えられればできるけれど、企画はつくれない。与えられることが習慣になっていて、つくる習慣がないというのです。ないものは「つくる」ではなく、ないものは「買えばいい」なんですね。いつでも、どこでも、何でも買える“コンビニ文化”でしょうか。

「ものづくりの国」日本で、「つくる」ことが失われていっては残念です。

子どもに何かを我慢させればいいというものではないですが、リサイクルショップの活用などは若い人の方が上手でしょうから、工夫してみてください。何でも無条件に与えられることに慣れてしまうと、金銭感覚も鈍ります。欲しいものを得られた喜びも損なわれます。場合によっては経済的に裕福な方が、精神的に貧しく映ってしまうこともあるかもしれません。

お金や物の価値を教えるということも、大人の役目の1つだと思います。

◆セルジオ越後 ブラジル・サンパウロ生まれの日系2世で、18歳でブラジルの名門コリンチャンスとプロ契約。同国代表候補にもなった。72年に来日、藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。78年から「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。17年旭日双光章を受章。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。