南米選手権開幕 ブラジル文化を学ぶ/セルジオ越後

コパ・アメリカ参加国とブラジルの主な都市

<セルジオ流Education>

サッカーの南米選手権(コパ・アメリカ)が14日(日本時間15日)からブラジルで始まり、日本は招待国として東京オリンピック(五輪)世代を中心としたチームで参加します。サッカーはワールドワイドのスポーツ。親子や家族で試合を楽しむ時に、競技面とともに参加国や開催地の歴史や文化を学べる機会です。今回の「ニッカンジュニア」では南米とブラジルについて、ブラジルで生まれ育ったサッカー評論家のセルジオ越後氏(73)ならではの話題をお届けします。

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ブラジルというと、日本では「サッカーとサンバの国」という印象が強いでしょうか。もちろんそれもあるのですが、ブラジルの1つの特徴は多くの移民を受け入れてきた国ということです。単一民族といわれる日本とは大きな違いがあります。

例えば、17日(日本時間18日)に日本がチリと対戦するサンパウロ。僕が生まれ育った都市は、日系だけでなく欧州系、アラブ系などがおり、異なる文化が共存します。おのずと同じ民族系でコミュニティーをつくり、昔は職業にも特徴がありました。アラブ系はカーペットや民芸品関係の小物を売る。イタリア系は飲食店、ポルトガル系はパン店が多い。理由はわかりませんが、日本系はクリーニング店が目立ち、最近は医師などが増えました。南部のドイツ系の街は美しく、海岸部のサントス市は港町だからか、沖縄の方から来た人々が多かったです。

日系では「県人会」もありました。僕の父親は兵庫県、母親は熊本県出身でしたが、熊本県の名門高「済々黌(高)会」とか慶大出身者による「三田会」もあったそうです。みんな同郷の人々と助け合って暮らしていたんです。

サンパウロ市の人口は18年データで世界12位の約1200万人で、同19位の東京約927万人を上回ります。いわゆる地方から仕事を求めて都会に来た人が多い。それでも職に就けない人がいて「貧富の差」が生まれて、窃盗などにつながり、治安が悪化しました。「格差」が大きくなると犯罪が生まれやすいというのは世界共通。日本も今後が心配です。

その点で、南米で最も経済が安定しているのはウルグアイかもしれません。面積は日本の約半分、人口は約349万人(17年データ)と小国で、経済大国ではないでしょうが、浮き沈みが小さいのです。政治家の汚職などあまり耳にしませんし、むしろ「欲がない」と聞きます。国民性的にもあまりぜいたくは求めず、「無駄も不足もない」という生活を望む印象。税金の使い方がうまいのでしょう。

でも、サッカーになったら話は別です。ウルグアイはワールドカップ(W杯)初代王者、南米選手権で過去最多の15回優勝を誇る古豪で、20日(日本時間21日)の日本戦には全力でぶつかってくるはず。親善試合とはいえ、昨年10月に3-4で屈辱的な敗戦を喫していますし…。この試合の開催地ポルトアレグレはウルグアイとの国境に近い都市です。たぶんウルグアイからの観客動員を見込んで設定したのではないでしょうか。1995年にウルグアイで南米選手権が開催された時、同様にブラジルは両国の国境間際のリベラ市で1次リーグを戦いました。こういう興行的なことは、しっかりしています(笑い)。

移民が多いという点ではブラジルも米国も似ています。ブラジル北部ではサトウキビ畑で働く労働者として、かつてアフリカからの移民もいました。差別もまったくなかったとは言い切れません。

ただ、僕個人としてブラジルが米国よりよかったと思うことは、米国の南北戦争のような差別問題に関連する戦争までは起きなかったことです。一方で米国の方が上回っている点は学校設備の普及、教育システムでしょうか。教育の場を定着させるのには時間がかかります。着手から30年かかるともいわれます。南米やアフリカ、東南アジアにはまだ行き届いていない国もある。その面で、日本は恵まれていると思います。

◆セルジオ越後 ブラジル・サンパウロ生まれの日系2世で、18歳でブラジルの名門コリンチャンスとプロ契約。同国代表候補にもなった。72年に来日、藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。78年から「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。17年旭日双光章を受章。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。