川崎Fの強さ秘密はトップから下部まで一貫育成指導

川崎F対札幌 ルヴァン杯を制し歓喜の表情でトロフィーを掲げる川崎Fの選手たち(撮影・垰建太)

<YBCルヴァン杯:札幌3-3(PK4-5)川崎F>◇決勝◇26日◇埼玉

川崎Fがルヴァン杯で初優勝を果たし、17、18年のリーグ優勝に続き、3年連続でタイトルを獲得した。

今季は下部組織で育ったMF脇坂泰斗(23)、田中碧(21)ら若手が台頭し、チームの戦力向上につながった。「育成の強化」が実を結んだ結果でもある。下部組織に携わる山岸繁育成部長(57)に話を聞いた。

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ルヴァン杯決勝の舞台に、川崎Fユース出身の2人の選手が先発のピッチに立った。阪南大を経由して加入したプロ2年目のMF脇坂と、トップ昇格3年目のMF田中だ。風間八宏前監督が就任した12年以降、下部組織もトップと同じ技術を駆使したパスサッカーを踏襲。脇坂と田中の活躍はトップと下部組織のスタイルの一貫性が実を結んだ証しでもある。

脇坂はルヴァン杯プライムステージで3試合に出場し2得点。準決勝の鹿島との第1戦で逆転弾を決めるなど優勝に大きく貢献した。田中もU-22日本代表で活躍するなど成長著しい。ユース出身の2人の活躍に、山岸育成部長は「下部組織の目的はトップに上げること。トップで活躍してくれる選手が出てきたのは本当にうれしいことですし、今いる選手も励みになる。時間はかかりますけど、一貫指導は良かったんだろうなと感じています」と振り返った。

川崎Fのユース(U-18)の設立は98年。翌99年にジュニアユース(U-15)が設立された。アカデミー強化の目的で、06年にはジュニア(U-12)が立ち上がり、その1期生が東京五輪世代でA代表も経験したMF三好康児(22=アントワープ)とMF板倉滉(22=フローニンゲン)にあたる。

12年に風間前監督が就任し技術を駆使したパスサッカーが軸となった。「止めて、蹴るの技術は育成も含めてやっていく」との方針がとられ、風間前監督がユースの練習に顔を出して直接指導したり、育成のコーチ陣に指導の仕方を伝授するなど、トップと育成のスタイルの一本化が進められた。

育成でも、トップと同じ技術向上のメニューに取り組む。狭いスペースで高速パスをピタリと止めてボールをつなぎ、体の向き、ボールの置き所を徹底的にこだわる。脇坂も田中も下部組織から、トップの肝である「止める・蹴る」を磨いてきた。ユース世代は「試合に勝つこだわり」も技術同様、重要項目になっているが、小学世代は個の技術を伸ばすことに重きが置かれている。

脇坂はユース時代を「学年上がるにつれ、個人の技術を伸ばすことがチームのためになることを意識して臨んでいた。自信をもってボールを持てるようになっていったのは、大学でも生きたし個人としても大きかった」。トップと同じスタイルで練習した土台があったからこそ、脇坂も田中もプロ入りしてほどなく、チームで頭角を現した。

川崎の地は、近隣に横浜、東京、東京Vなど他クラブの下部組織がひしめく。将来有望な小学生をいちはやくジュニアユースにスカウトする「育成スカウト」がいるクラブもある。体がたくましく技術のある選手は競合になり、歴史のある他クラブに流れるケースが多かった。だが、トップのスタイルの踏襲で変化が起きた。「フロンターレみたいなサッカーをやりたい」と川崎Fを選ぶ選手が増えてきたのだ。東海、東北など遠方からもジュニアユースのセレクションを受けにくる。現在、地方選手のための寮がないが、それでも「家族で引っ越します」と情熱をかける一家もおり、山岸育成部長は「トップのサッカーやっているおかげだと思う」。将来的には、寮の建設も視野に入れているという。

昨年から、下部組織でも「スカウト」を配置した。東京、神奈川の町クラブの試合に足を運び、有望な小学生を、中学からのジュニアユースにスカウトするためだ。セレクションの「受け身」での選手選びだけではなくなった。今年の中学1年生は「スカウト元年」で、スカウトが熱意を持って獲得した選手も含まれている初の世代となる。強豪クラブと試合をしても互角に戦うなど期待値も高く、今後の伸びしろも注目される。山岸育成部長は「トップの選手の3分の1をアカデミー出身者にしたい。トップの約10人が育成出身者にできれば」と大きな目標を掲げる。来季は、筑波大を経てMF三笘薫(22=筑波大)、ユースからMF宮城天(18)の昇格が決まっている。育成の夢がかなえば、トップの強さはより盤石になるはずだ。【岩田千代巳】