岩手天皇杯予選、12日実施に抗議殺到で一転中止

サッカー天皇杯の岩手県予選が10日、急きょ延期になった。新型コロナウイルスの感染拡大で全国的に公式戦が中止となる中、岩手県協会は県内の感染者ゼロであることを理由に12日に準決勝、19日に決勝を予定。しかし、試合実施の事実を報道で知ったサッカー関係者や行政、ファンから「今はやるべきではない」と否定的な意見が殺到。社会的な反響があまりに大きく、あえなく断念した。

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無数の抗議には勝てなかった。岩手県協会の担当者によると「数え切れないほど、抗議の電話がありました。ほとんどが試合実施に関して否定的な意見だった」という。

岩手県では3月29日に天皇杯県予選準々決勝を実施。その後、日本協会は7日に「5月末まですべての公式戦を中止する」と発表したが、岩手県協会は「県内に感染者が出てない。1人でも出たら中止する」として、同準決勝(12日、富士大-日本製鉄釜石、盛岡つなぎ多目的運動場)と決勝(19日、J3岩手-準決勝勝者、いわぎんスタジアム)を行うことを決めた。

その事実が9日夕方に報じられると、普段はあまり電話が鳴らない同県協会事務所には2日連続で電話が鳴りっぱなし。急きょ10日の午前にミーティングを開き、延期を決めた。当該3チームに連絡し、日本協会担当者にも報告した上で、午前11時に延期を発表した。同県協会関係者は「反対の声、非難の声が多かったです。その意見が今回の延期決定の理由です」と話した。

岩手県には感染者が出てないものの、東京などを中心に7都府県で緊急事態宣言が発令され、日本全土で「家にいよう」運動が展開されている。社会の流れに逆行する決定だったが、多くのファンの声に敏感に反応し、速やかに延期を決定したことは評価できる。今後、延期した2試合の日程調整に入るが、場合によっては昨季までの実績を優先し、J3岩手を県代表とする可能性もある。

天皇杯は今回、第100回というメモリアル大会だ。だが新型コロナウイルスの影響により、J1勢が従来の2回戦からの出場を4回戦からに変更するなど、1度大会システムを変えた。さらに5月10日までに地区予選を終了、5月23、24日に本大会の1回戦実施という予定だったが延期が決まった。今後、大会方式の変更を強いられる可能性もある。

今回は岩手県協会による強行実施からの急転延期という騒動に終わったが、根本的な問題解決の糸口は見えていない。日本サッカーの歴史というべき伝統ある大会が揺れている。