イングランド、ナイジェリア破りW杯へ仕上がり順調

<国際親善試合:イングランド2-1ナイジェリア>◇2日◇ロンドン(ウェンブリー・スタジアム)◇7万25人

 6月に国内で2戦をこなした上で12日にロシア入り予定のイングランド代表が、ホームでナイジェリア代表を下し、順調にワールドカップ(W杯)本番への準備を進めた。

 前半は完全にナイジェリアを圧倒。7分のCKからDFケイヒル(チェルシー)のヘディングで早々に先制点を奪うと、39分に主砲のFWケイン(トッテナム)のミドルシュートでリードを広げた。後半早々、MFイウォビ(アーセナル)に許した失点は、ハーフタイムを境に選手4名とシステムを変えた相手の出方に戸惑っていた最中の出来事。敵はスタンドのファン数千人を含めて息を吹き返しかけたが、10分間弱で落ち着きを取り戻した後は無難に勝利へとこぎ着けた。

 試合後、イングランドのサウスゲート代表監督は「前線4名のパフォーマンスは秀逸だった」と、納得の表情で語った。自軍にとってのW杯初戦となるチュニジア戦を16日後に控えての一戦。同じアフリカ勢でも、モーゼス(チェルシー)、この日はベンチスタートだったイヘアナチョ(レスター)といったスピードのあるFW陣を元チェルシーのMFミケル(天津)が操る攻撃的スタイルが、コンパクトにカウンターを狙うと思われるチュニジアとは異なるナイジェリアとのテストマッチは“自己テスト”として意義があった。

 つまり、相手にどう対処するかではなく、いかにして自分たちらしく戦うかということ。イングランドFA(協会)を先頭に代表復興への取り組みが行われている中、47歳の監督が率いる平均年齢26歳の発展途上チームに求められるロシア大会での成果とは、ボールを支配して攻めることのできるチームへと進化しつつある証拠を示すことに他ならない。

 むろん1勝もできずに終わった前回ブラジル大会に続くグループステージ敗退は許されない。その意味でも、積極的な攻めの姿勢は妥当だと言える。グループGでの3戦目に強敵ベルギーと対戦するイングランドは、チュニジア、パナマと続く開幕2戦で連勝し、決勝トーナメント進出への足場を固めるべきなのだ。そのための基本とサウスゲートが位置付ける3-1-4-2システムは、「攻撃に人数を割きやすい」とする指揮官の思惑通りに機能した。

 優勢を追加点として反映したかった時間帯にケインが決めたチーム2点目は、弱冠18歳のGKウゾーのミスにも助けられたが、セカンドトップ的に自由に動きながら2トップの相棒となった、スターリング(マンチェスターC)からのリターンパスを受けてのパワフルな右足シュートでもあった。残る「前線4名」の構成員は、左右ウイングバックに挟まれる格好で2列目中央に入った、アリ(トッテナム)とリンガード(マンチェスターU)。当初は2列目のクリエイター役を争うと思われた両MFは、前者はパス、後者はランに見られるセンスの良さを発揮しながら共存に成功していた。アリのパスに始まり、リンガードがボックス内に走り込んだ29分のチャンスが一例だ。

 中でも精力的なスターリングのプレーは、サウスゲートを安心させ、かつ喜ばせたに違いない。3月のテストマッチ2試合で2トップ起用が奏功した23歳は、右足に入れたライフル銃のタトゥーと、フライトの問題による半日遅れの代表合流でネガティブな注目を集めたばかり。その当人が「プレーで応えたかった」と試合後に語った通り、必要以上に事を荒立てず、公の場では非難を避けて先発起用した指揮官の判断を「正解」と周囲に理解させるだけの働きぶりを見せた。

 スターリングは12分、13分と立て続けにアリのパスに反応してゴールに迫った。好セーブを呼んだ33分、ボックス内からシュートを吹かした37分の2場面を含め、前半にして勝利を決定的にできたはずのチャンスにことごとく絡んでいた。決定機に決めきれないシュートの精度はかねてからの課題であり、後半53分にはシミュレーションで警告を受けてもいるが、その意欲的かつ効果的なパフォーマンスを見れば、ピッチ外での出来事を理由に先発起用の是非を問う、ちまたの声は沈静化されるだろう。

 トーナメントを勝ち上がる上では軽視できない守備面でも収穫はあった。最後尾の起点としての「足元」の安定感で正GKの最右翼と目されていたピックフォード(エバートン)は、終盤に見せた飛距離も十分のパンチングなど、いわゆる「守護神」としても好プレーを披露した。その手前の3バックでは、右サイドで先発したケイヒルが、堅実な守りとゴール右上隅へのパワフルなヘディングで存在をアピール。貴重な経験値の持ち主でありながら、大会メンバー入りすら危ぶまれていた 32歳は、パス能力で勝るが故障明けのマグワイア(レスター)を抑え、本番チュニジア戦でスタメンに名を連ねても不思議ではない。

 サウスゲートがCB人選でうれしい悩みも手にしたイングランドは、7日に北西部リーズでコスタリカを相手に最後の調整試合。一方のナイジェリアは、6日にオーストリアでのチェコ戦を経て、強豪アルゼンチンに、クロアチアとアイスランドという難敵がグループDで待ち受けるロシアへと向かう。(山中忍通信員)