期待薄も俺たちの代表 最後は愛 岡田武史論(3)

パラグアイ戦の前半、先制点を許して悔しがる西野監督

 2度のワールドカップ(W杯)指揮を誇るサッカー元日本代表監督、岡田武史氏(61)が、今日14日に開幕するW杯ロシア大会を、独自の視点で「岡田武史論」を展開する。【取材・構成=木下淳】

 日本協会は4月、日本代表のハリルホジッチ前監督を解任し、西野監督を据えた。岡田氏も、過去2度の就任とも途中登板でW杯に導いている。どう戦えばいいのか。新任の指揮官が、始動後に突然3バックを試したことについて聞いた。

 岡田氏は「まず3バックであれ4バックであれ、たいした問題ではない」と即答した。大事なのは「チーム全体で、どこでスイッチを入れてボールを奪いに行くのか」決めること。「どう守備ラインを設定して、どのタイミングでボールを奪いに行くのか。(5月30日)ガーナ戦では、まだ定まっていなかった」と指摘した。

 西野監督に与えられた時間は短い。「今から攻撃のコンビネーションをつくろうと思ったら、絶対に間に合わない」と岡田氏も認める。一方で、こう続けた。「守備はできる。間に合う。1日あれば変えられる。まず約束事を、最初に誰がどこでボールに行くのかを決め、3バックでも4バックでも1つの生命体のように連動できれば、十分やれる」。

 98年も、直前に3バックに変えて初戦アルゼンチンと0-1の接戦を演じた。10年南アフリカ大会は、ボールを奪うポイントを前から中盤に下げた。その上で陣形も変更。「後ろ5枚(5バック)も考えたが、ベタ引きになる気がして」と回避し、中盤5枚を真横に並べる戦術を考案した。「よく阿部勇樹がアンカー(中盤の底)の4-1-4-1と言われるけど、違うんだ。4-5-1。アンカーだと、前の2枚が入れ替わるケースがあって、左右がクロスし出すと混乱する。だから横一直線に並べ、縦で割って前後の動きで守らせたら間を通されなくなった」。南アフリカで4戦2失点の守備を構築した経験から「難しくない。何が大事で何が1番のポイントなのか練習で息を合わせるだけ」。西野ジャパンにも不可能はないと言い切れる。

 指摘通り、短期間で一定の改善は見られた。ロシア前最後の強化試合パラグアイ戦。初戦コロンビア戦の1週間前にもかかわらず「バックアップ」と西野監督から呼ばれる選手が試合に出て、4-2で初勝利。前日までに守備の方針が固まり、ブロックを敷き、ボールに行く行かない、のメリハリをつけたからだった。

 あとは攻撃。西野体制初ゴールを含む4得点も“2軍”のパラグアイ相手では額面通りに受け取れない。「やはり今から西野さんの色を出すのは時間的に厳しい。選手に自由を与えすぎても、ガーナ戦のように中央に入りすぎてカオスになる。ある程度の原則、ファーストポジショニングは決める必要がある」。ロシア入り後も試行錯誤は続く。

 最後は愛だ。過去最悪と言っていいほど期待薄の西野ジャパン。「ベテラン優遇、若手不在、西野監督がどうこう…。いろいろあっても、俺たち国民の日本代表なんだ、という応援が必要」と力を込める。「アルゼンチンは監督批判が激しいが、代表が勝てば全国民が総立ちで喜ぶ。我々が南アフリカで勝った時に『チッ』って舌打ちがメディアや身内から聞こえてきた。岡田のことは大嫌いでもいい。でも、俺たちの代表が勝った時に喜べる文化にならないと、おかしいよ」。

 その時は「岡ちゃん、ごめんね」が流行語に。「あとで知った」と笑いつつ「謝られてホッとするわけではないし、たたかれたから反骨心も生まれた。ただ、俺らの代表、その監督というリスペクトが必要。西野さんも、結果を求められる覚悟をしていると思う」。

 そのために、とにかく初戦。ブラジル大会はコートジボワールに逆転負け。「次のギリシャ戦から目の色を変えて戦ったが、まだ巻き返す力はなかった。コロンビアはファルカオが戻ってきたし、先発11人の平均パフォーマンスは向こうが上。しかし、平均以上を相手に出させず、こちらが出す方法を西野さんは考えるはず。W杯だ。何が起こるか分からない。昔なら難しかったが、海外組が多い今なら可能性は十分ある」。