メッシ泣かせた フランス19歳エムバペが鮮烈2発

<ワールドカップ(W杯)ロシア大会:フランス4―3アルゼンチン>◇決勝トーナメント1回戦◇30日◇カザン

 決勝トーナメント1回戦初戦で新世代のスターが誕生した。フランスの19歳FWエムバペ(パリサンジェルマン)が2得点を挙げるなど3点に絡む大活躍で、4-3でメッシ率いる前回準優勝のアルゼンチンを下した。ワールドカップ(W杯)の1試合で複数得点を挙げた10代の選手は、58年スウェーデン大会のペレ(ブラジル)以来60年ぶり。時代の先頭を走ってきた31歳のメッシとの「10番対決」で、世代交代を強烈に印象づけた。フランスは2大会連続で8強入りした。

 とてつもないスピード。とんでもない推進力。これが若さなのか。新時代到来の瞬間なのか。エムバペは65メートルの距離を一瞬で「無」にした。前半11分。自陣でボールを奪うと、そのまま持ち上がった。アルゼンチン選手を抜くというよりも、置き去りにするスピード。DFロホはたまらず手で倒すしかなかった。先制点につながるPKを奪った。

 逆転されて追いついた後半19分、今度は自らの両足が光った。ゴール前の混戦から一瞬で縦に突破を図ると、左足で勝ち越し弾をたたき込んだ。その4分後、今度はカウンターから右足でダメを押す。まだ19歳6カ月10日。10代での複数得点は58年大会の王様ペレ以来60年ぶりだった。この4点目が、フランスを2大会連続の8強に押し上げた。

 自国開催で初優勝した98年W杯後の12月、アフリカにルーツを持つ両親の下で生まれた。12~14歳のときに元代表アンリ氏らを輩出したクレールフォンテーヌの育成機関で素質を磨き、加入したモナコでは16年2月のリーグ戦でクラブ史上最年少ゴール。昨年3月に18歳3カ月でA代表デビューを果たすと、1年後の今年3月に、プラティニやジダンらがつけた背番号10をわずか19歳にして託された。

 抜群のスピードを生かした突破力と、シュートセンス。「全ては本能で動いている。ボールを受けたら仕掛ける。考えていたら、その隙にボールを失ってしまう」。自らの持ち味をそう話す新世代の旗手に、デシャン監督は「褒めすぎたくはないが、この年齢で成し遂げてきたことは素晴らしい」と高く評価してきた。

 「W杯は誰しもが夢に見る場所」。そう話す大舞台で、注目されたメッシとの10番対決。勝利に導くゴールという結果を出したのは若き血だった。ジダンにあこがれて、ヘアスタイルを“丸刈り”にしようとしたこともあった19歳が今、世代交代を強く印象づけた。

<キリアン・エムバペ アラカルト>

 ◆スポーツ一家 1998年12月20日、パリ近郊のボンディで生まれる。父ウィルフレッドさんはカメルーン出身のサッカー指導者で、アルジェリア人の母は元ハンドボール選手。

 ◆プロデビュー 14歳でモナコのユースチーム入り。17歳の誕生日前にプロデビューを果たし、17歳62日のトロワ戦でプロ初得点を記録した。

 ◆欧州を舞台に 16-17年シーズンは欧州CLでも活躍。準々決勝ドルトムント戦で2得点し、同大会決勝トーナメントにおける1試合複数得点の最年少記録を18歳と113日に更新。チームの13年ぶり準決勝進出にも貢献した。

 ◆最年少記録 昨季は期限付き移籍でパリサンジェルマンでプレー。欧州CL第6節のBミュンヘン戦でゴールし、史上最年少の18歳11カ月で同大会通算2ケタ得点到達。昨夏の契約は1年間の期限付きの後、移籍金1億8000万ユーロ(約234億円)で完全移籍に移行する大型契約だった。

 ◆年代別エース フランス代表として16年にU-19欧州選手権に出場し、5得点で優勝の原動力に。17年3月26日のW杯予選ルクセンブルク戦で18歳と96日の代表デビュー。

 ◆ドナテロ アニメ「忍者タートルズ」の登場人物ドナテロに似ているところから、パリサンジェルマン移籍後に愛称になった。

 ▼10代選手の1試合2得点以上 19歳のフランスFWエムバペが2得点、大会通算3点目。W杯で10代選手が1大会2ゴール以上は、イングランドの「ワンダーボーイ」オーウェンが18歳だった98年大会で記録(2得点)しているが、1試合2ゴール以上となると、ブラジルの「王様」ペレが17歳だった58年大会の決勝スウェーデン戦で2得点して以来、60年ぶり。58年大会のペレは、準決勝のフランス戦で3ゴールを決めており、17歳244日の最年少ハットトリックを達成している。