フランス、シャンパン捨て「犬」になって全員守備

フランス対ベルギー 試合後、フランス・エムバペ(左)とタッチをかわすデシャン監督(撮影・江口和貴)

<ワールドカップ(W杯)ロシア大会:フランス1-0ベルギー>◇準決勝◇10日(日本時間11日)◇サンクトペテルブルク

 フランスが「シャンパンサッカー」を捨てて、決勝進出の「実」をとった。後半6分にDFウンティティのゴールで先制すると、その後は徹底した守備で、準々決勝まで大会最多14得点のベルギーの攻撃陣を完封。デシャン監督の現実的なサッカーを若い選手たちがピッチ上で体現し、1-0で逃げ切った。優勝すれば98年フランス大会以来2回目、当時主将だったデシャン監督は史上2人目の主将と監督での世界一を目指す。

 フランスの青いユニホームが、ゴール前に壁をつくった。先制してからロスタイムを含む約45分間、ベルギーの猛攻に耐えた。E・アザールのドリブルを3人がかりで止め、左右のクロスを中央ではね返した。エムバペやジルーらFWも自陣まで戻り、相手のシュートを体を投げ出して防いだ。

 終盤には露骨な時間稼ぎでブーイングも浴びた。それでも11人は守りきった。殊勲のウンティティは「ピッチには11人の犬がいた」と献身的に走り回ったチームメートに感謝した。デシャン監督は「選手は心身ともに強さをみせ、守備的にハードワークしてくれた」と満足そうに話した。

 将軍プラティニに率いられた80年代、フランス代表は「シャンパンサッカー」と呼ばれた。中盤で回す華麗なパスは「シャンパンの泡のよう」と形容された。「攻撃的に勝たないと、フランス人は納得しない」と言ったのはプラティニ。圧倒的な攻撃力を持ちながらも勝負弱く、ファンを喜ばせても優勝は遠かった。

 90年代は新将軍ジダンが君臨した。攻撃陣を操って98年にはW杯優勝を果たしたが、主将は現在のデシャン監督だった。ユベントスで培った現実主義を持ち込み、後方を走り回ってジダンを支えた。決して「シャンパン」ではなかったが、フランスは勝利した。

 チームはジダン引退後に求心力を失い、低迷が続いていた。6年前に就任したデシャン監督は「ベンチの将軍」として若い選手をまとめた。プラティニ、ジダンのようなスーパースターはいないが、戦えるチームを作りあげた。2年前の欧州選手権は決勝まで進みながらポルトガルに敗れ「本当につらかった。だから、もう謙虚な敗者にはなりたくない」と頂点を目指して話した。

 勝利の瞬間、スタンドのマクロン大統領はベルギーのフィリップ国王の前で歓喜を爆発させた。シャンゼリゼ通りも人で埋め尽くされた。かつての「攻撃的に勝たないと」というロマンチックな感情はフランスにはない。合理的で現実的。勝たなければフランス人は納得しない。主将と監督でのW杯優勝は過去に西ドイツ(当時)のベッケンバウアーだけ。史上2人目の快挙まであと1勝と迫ったデシャン監督は「勝つためなら何でもやる」と言ってのけた。