新生チェルシー、攻撃的スタイル確立へ「辛抱」

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<フットボールの母国から:第6回>

平均7割近いボール支配率で今季開幕4連勝。これがペップ・グアルディオラ率いる昨季プレミアリーグ王者、マンCの数字であれば今更驚くことはない。しかし、マウリツィオ・サッリ就任1年目のチェルシーとなると話は別だ。新監督が「2、3カ月は必要」と見込んでいた攻撃的スタイルの習得は、予想以上のペースで進んでいる。

9月1日のプレミア第4節(2-0)で対戦した相手監督によれば、今季のチェルシーは「昨季までとは別物」。ボーンマスを率いるエディ・ハウは、自らもボールを持って攻めるサッカーを好み、エンポリ監督時代(15年までの3年間)の「サッリ流」を参考にした人物でもある。確かに、フルタイム5分前の追加点は「サッリのチーム風」。アントニオ・コンテ前体制下でも、その前のジョゼ・モウリーニョ体制下でも、1-0での逃げ切りを狙っていたはずの時間帯に、左SBマルコス・アロンソが、相手ペナルティーエリア付近まで上がってエデン・アザールへのアシストをこなしている。クラブを牛耳るロマン・アブラモビッチは、オーナーとしての過去15年間で自らが招いた新監督7番目にして、ついに念願の「強く美しい」チェルシーを作り上げる適任者を雇い入れたと言えるかもしれない。

しかしながら、終始攻勢を狙う新チェルシーにとってのキーワードは、一見すると相反する「辛抱」になるだろう。競争性の高いプレミアでは、格下もポイント奪取を狙ってくる。ボーンマスも、守備に頭数を割きながら人カウンターで食い下がり、スコアが0-0だった70分間では2度の絶好機を手にしていた。その前週のニューカッスル戦(2-1)も。チェルシーに先制点と勝ち越し点が生まれたのは、後半も残り15分を切ってから。長らく速攻を得意としてきた選手たちは、守備的な相手を攻めあぐねても焦らず、新たなスタイルに徹する意識が求められる。

ファンも同様。ホームでのボーンマス戦では、スタンドの相手陣営から「ここは図書館か?」「代わりに歌ってやろうか?」などと歌われてしまった。優勢ながら点が取れない「嫌な展開」に不安を覚えて声を失うのではなく、試合後に「こういう試合は最後の20分ぐらいで攻め崩せるもの」と言っていたサッリの流儀を信じ、さらなる攻勢へとチームの背中を押し続けなければならい。

攻撃の主役であるアザールも、試合後に指揮官と同じことを言っていたとなればなおさらだ。サッリが好む、ラインを押し上げた4-3-3システムを機能させる上でのキーマンは、新監督が前任地ナポリから連れてきたアンカーマン兼プレーメーカーのジョルジーニョ。だが、勝利への扉を開ける鍵を握る選手はアザールであり続ける。R・マドリー入りがうわさされ続けた夏を過ごした27歳は、チェルシーでの存在感を増している。フルタイムをこなしてゴールも決めた3節と4節で、マン・オブ・ザ・マッチに値するパフォーマンスを見せる以前、W杯後の調整遅れでスタメンを外れたハダーズフィールド戦(3-0)とアーセナル戦(3-2)でも後半にベンチを出てアシストをこなしたように、気持ちは開幕当初から乗っていると見受けられた。

今も「兄弟でボールを蹴って遊んでいた頃の楽しさを忘れていない」と言う、「チェルシーの10番」にすれば当然の成り行きとも思える。スタート位置は3トップ左サイドだが、中央や逆サイドに流れる自由度が増した今季は、ボールに触れる頻度も、チャンスに絡む機会も目に見えて増えているのだ。就任会見で、プレーを「楽しむこと」の大切さを強調したサッリは、アザールにとって、チェルシーでの6人目にして最も共感を覚えられる監督とも考えられる。

それだけに、目に優しいスタイルを求める中で結果に目はつむらないオーナーも、サッリ新体制には猶予を与えて欲しいものだ。アブラモビッチが、結果と内容の両立を本格的に求め始めたのは、1度目のモウリーニョ体制後にルイス・フィリペ・スコラーリを新監督に迎えた10年前。開幕戦を4点差の勝利で飾ったスコラーリ体制の船出は、メディアで「サンバのリズム」という表現と共にたたえられた。だが勢いは長続きせず、大物ブラジル人監督は就任7カ月で首を切られた。今回のサッリ体制も、開幕節快勝に続くアーセナル戦で、一時的に2点差を追いつかれて守備の問題点を垣間見せてもいる。

サッリは、リーグと国内外カップ戦で優勝の可能性を残しての終盤戦突入を就任1年目のノルマとして課されている。早々にタイトル獲得が望み薄となれば、そもそも主要タイトル獲得歴を持たない、アブラモビッチ政権下では異例の新監督の「危うさ」がメディアで書き立てられることだろう。しかし、物理的なトロフィーはなくとも、昨季5位からのトップ4復帰でCL出場権を取り戻すことができれば、現時点では「とりあえず1年残留」との見方も強いアザールが、ピッチ内外で水の合うチェルシーで、来季以降も攻撃的スタイル確立の要人であり続けてくれる可能性が高まる。「忍の一字は衆妙の門」と言うが、改めて攻撃路線への入り口に立ったチェルシーは、辛抱強く攻め続け、辛抱強く見守られるべきチームである。(山中忍通信員)

◆山中忍(やまなか・しのぶ)1966年(昭41)生まれ。静岡県出身。青学大卒。94年渡欧。第2の故郷西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を時には自らの言葉で、時には訳文としてつづる。英国スポーツ記者協会及びフットボールライター協会会員。著書に「勝ち続ける男モウリーニョ」(カンゼン)、訳書に「夢と失望のスリー・ライオンズ」(ソル・メディア)など。

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  • ボーンマス戦で得点を決め喜ぶチェルシーイレブン(ロイター)
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