緊急事態宣言の全面解除が決まり、日本でもサッカーが楽しめる日常が近づきつつある。日本サッカー協会はアジアを中心に日本人公認指導者を各地に派遣しており、ベトナムU-18女子代表などを指揮する井尻明監督(49)と、台湾女子代表の大友麻衣子GKコーチ(34)のいる両国ではリーグ戦などが再開。サッカー発展のために異国で活躍する2人に現地での様子などを聞いた。【松尾幸之介】

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<ベトナムU-18女子代表 井尻明監督>

ベトナムでは4月下旬に都市封鎖が解け、練習も解禁。当初は10人以上の練習は制限されたが、現在は通常通り。井尻氏は女子全体の技術指導も任され、滞在するハノイでのU-15、同16代表の練習で現場復帰した。覚えたてのベトナム語を駆使しながら指導しており「伸びしろはすごく感じています」と話す。

ベトナムは27日時点で感染者数は300人強で死者はゼロ。02~03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)で医療崩壊などを起こした経験から、徹底した対策を行ってきた。「国の行動が早く、警察が体温検査に出向き、感染者が出た村はすぐに隔離。施策に反する国民はムチでたたかれたり、腕立てをさせられていた。ベトナム人の知人は『命さえあればなんとかなるんだよ』と言っていました」。

現地では22年開催予定のU-20、U-17W杯出場、そしてA代表初の23年W杯の出場切符獲得へ向けて取り組む。ただ現地では、小学生の女子がスポーツに打ち込む習慣があまりない。「女の子がサッカーを始められても14、15歳と遅く、結婚のために引退するのも早い。代表の強化試合もまだ少ない」と課題もあるが、指導しながら手応えもつかんでいる。「一番の長所は相手に向かう強いメンタル。そこに働きかけると向上速度は上がる。加えて、映像などを使って戦術も教えていて『わかりやすかった』と言ってくれる選手も多かった。プレーも変わってきました」。経験したことのない初夏のリスタートに適応しながら、異国での日本人指導者たちも奮闘を続けていく。

◆井尻明(いじり・あきら)1970年(昭45)8月17日、福島県生まれ。高校時は市船橋で高校総体優勝、全国高校サッカー選手権準優勝を経験。駒大を経て京都などでプレーし、02年から指導者へ。JFAアカデミー福島のコーチや中国の広州富力U-15監督、J3長野のアカデミーダイレクターなどを経て19年2月からベトナムで女子のアンダー世代を中心に指導にあたる。185センチ、75キロ。

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<台湾女子代表 大友麻衣子GKコーチ>

台湾ではプロ野球同様、男女の国内リーグが4月2週目に無観客で開幕した。台湾ではスポーツのテレビ中継やネット配信が盛んで、大友氏は「もともと画面を通じて見ている人も多い」と語る。試合会場は関係者しか入れず、座席感覚も空けて座る。入り口では体温検査やアルコール除菌を行っており「マスクなど最低限の対策をして、日本も少ない人数から始めた方がいいと思います」と話した。

現在は代表選手もいる国内クラブの巡回指導にあたる。世界最速で野球も開幕した台湾で、予防意識の高さを感じる出来事にも直面した。2月に参加した東京五輪予選の当初の開催地はウイルスが流行していた中国の武漢。選手はすぐに「私たちは行きません」と伝えてきたといい、大友氏は「会場変更がなければ辞退する方向で進んでいて、こんなことでせっかくの機会を…と当時は思っていましたが、実際は正しかった。現地の方は『ウイルスをなめてはいけない』と言っていて、捉え方の違いを学びました」と振り返った。

◆大友麻衣子(おおとも・まいこ)1985年(昭60)11月17日、神奈川県生まれ。高校3年次からGKに転向し、日体大では同期の元日本代表MF川澄奈穂美らと共にインカレ優勝などを経験。08年に新潟入りし、12年限りで引退。尚美学園大GKコーチなどを経て19年6月から台湾の女子代表GKコーチに就任した。165センチ。