伝説になった乾は「大空翼」 2年ぶり代表復帰へ

日本選手のバルセロナ戦出場

<スペインリーグ:バルセロナ4-2エイバル>◇21日◇最終節◇バルセロナ

 エイバルMF乾貴士(28)がバルセロナから日本人初ゴールを奪った。前半7分と後半16分に左足で歴史的2発。2-4で逆転負けしたものの、メガクラブ相手にスペインでの日本人通算ゴール数を最多6得点に更新。2年3カ月ぶりの日本代表復帰の可能性も高まった。3連覇を狙ったバルセロナは2位に終わり、2得点のFWメッシは37得点で得点王で輝いた。

 あのバルセロナから、日本人が点を取る日が来るなんて-。21日午後8時6分45秒、乾が聖地カンプ・ノウで伝説になった。DFカパの右クロスに反応し、左サイドを疾走。難しいワンバウンドに左足を合わせると、すねに当たり、クロスバーの下をたたいてネットを揺らした。日本人初のバルセロナ戦ゴール。無心の一撃に約7万5000人が言葉を失う。「歓声がなさ過ぎて本当に入ったのか分からなくて」。不気味な静寂に、決めた乾も笑顔になるのを迷ったほどだった。

 夢はさめない。後半16分には2点目が生まれた。再び左サイドでボールを受けると、走りながら左足ボレー。今度は甲でとらえたボールがまたクロスバー下を強襲し、ゴールラインを割った。メッシが唇をかんで自陣に背を向ける中、お辞儀ポーズで祝福されたハポネス(スペイン語で日本人)は「うれしいし、名誉なことだけど、ビックリの方が大きい。Jリーグでもドイツでも1部の試合で2得点したことないのに、初めてがバルサ戦なんて…。一生、忘れられないし、もう全部の運を使い果たした感じ」と驚くしかなかった。

 日本人の鬼門スペイン。中でも最難関がカンプ・ノウだった。過去20度の公式戦で得点、アシストは一切なし。しかも今回は、最終節で逆転優勝を狙う本気のバルセロナだ。火がついたメッシの2発返しを含む4失点で逆転負け=初勝利は逃したものの、乾が奪った高難度の2得点に、マルカ紙は「(漫画キャプテン翼の)大空翼よりも優れた選手」と称賛。アニメのような夢物語が現実になった。

 既にスペインでの日本人最多出場記録(55試合)も持ち、4月には日本でのスペイン国王と安倍首相の夕食会に招かれた。そして今回、最多得点も更新。大久保嘉人がマジョルカで挙げた通算5点を超える6点目で、名実ともに最も成功した日本人になった。日本代表ハリルホジッチ監督も、もう無視できない。関係者によると、エイバルには6月の代表戦に向けた招集レターが届いている。15年3月以来2年3カ月ぶりの代表復帰へ。「バルサから決めた男」の肩書で、乾が凱旋(がいせん)を果たす。【バルセロナ(スペイン)=木下淳、山本孔一通信員】

 ◆乾貴士(いぬい・たかし)1988年(昭63)6月2日、滋賀県近江八幡市生まれ。野洲高2年時に全国高校選手権優勝、07年横浜入り。08年6月にC大阪、11年夏にドイツ2部ボーフム、12年夏に同1部フランクフルト移籍。15年夏エイバルへ。A代表デビューは09年1月20日アジア杯予選イエメン戦。国際Aマッチ19試合2得点。家族は夫人と1男。169センチ、63キロ。血液型A。