サウサンプトン降格回避、ヒューズ監督の吉田麻也評

<プレミアリーグ:サウサンプトン0-1マンチェスター・シティ>◇13日◇英国・サウサンプトン

 ホームに今季プレミアリーグ王者のマンチェスター・シティー(マンC)を迎えた最終節。サウサンプトンDF吉田麻也(29)は3バックの中央でフル出場。サウサンプトンは、自力での残留確定に必要だった勝ち点1ポイントを手にすることはできなかったが(0-1)、3ポイント差で降格圏内18位のスウォンジーが他会場で敗れ、17位での降格回避に成功した。

 スコアレスドローでの1ポイント獲得まで、あと約30秒まで迫ってもいた。しかし、後半ロスタイム4分、相手MFデ・ブルイネのロングパスにFWジェズスが走り込み、GKマッカーシーの頭越しにネットを揺らし、マンCに勝利をもたらした。

 試合前、サウサンプトンのヒューズ監督は「白星で締めくくりたい。チームの調子からして可能だとも思っている」と語っていた。スウォンジーとの間には、得失点差でも「9」の開きがあったことから、マンCに負けても残留争いで敗れる可能性は低かった状況の中で、チームの油断を未然に防ぎ、尻をたたく意味もあったのだろう。

 実際にはポイントを奪えずに終わってしまったが、惜敗と言える結果は勝者をたたえるべきなのかもしれない。マンCのリーグ優勝が決まってから丸1カ月。各国代表選手がそろう敵の主力は、土壇場でアシストをこなしたベルギー代表のデ・ブルイネにしても、ラストチャンスをものにしたブラジル代表のジェズスにしても、意識は既に来月のワールドカップ(W杯)ロシア大会に向いていても不思議ではい状況だった。

 にもかかわらず、グアルディオラ監督が、後半早々に左SBデルフに代えてジェズスを投入し、そのジェズスによるゴールに喜びを爆発させていたように、マンCは最終節の最後の1分まで勝ちにいった。終了間際の一撃は、自陣内からの正確なロングボールといい、ボックス内での冷静なフィニッシュといい、クオリティーの高い攻撃。勝ち点数(100)、アウェイ勝利数(16)、アウェイでの勝ち点数(50)、勝利数(32)、2位とのポイント差(19)、得点数(106)といったプレミア新記録を樹立して、今季の圧倒的な優勝に自ら花を添えてみせた。

 そして、そのマンCを相手に善戦したサウサンプトンも、少なくともシーズンを前向きに終えてみせた。発足から丸2カ月が過ぎたヒューズ体制下で、選手たちが足並みをそろえて戦えていることは、この日のパフォーマンスからも明らかだった。スタンドのファンも、何度も「俺たちは猛烈なヒューズ軍団だ!」と歌いながら、チームの背中を押していた。

 0-0で終えた前半、先制点に迫ったのは、7分にCKの流れからフートが放ったヘディングが、惜しくもバーに弾かれたサウサンプトンだった。事実上5-4-1の陣形で後方の守りを固めつつも消極的ではなく、マンCが攻勢を強めた後半にしても、70分にはピッチに立って数分後のウォード=プラウズのヘディング、78分にはオフサイドトラップを破ったタディッチの左足シュートなど、それぞれ相手GKブラボとゴールライン上のフェルナンジーニョに阻まれはしたもののチャンスを得てはいた。

 こうした戦い方を可能にする基盤となった最終ライン中央では、吉田も、当初はトップ10内が予想されたチームと同様に不本意ではあったシーズンを、少なくとも前向きに終えている。素早く前に出てボールを奪い、前方にパスを通した42分のシーンのように、3バックの真ん中で持ち前の機動力と足元の技術を生かしながら、能動的に敵の攻撃を防いでいた。ペナルティーエリアに侵入されたとしても、イングランド代表FWスターリングとの1対1で落ち着いて対処した14分の場面をはじめ、決定的なチャンスを与えずにいた。

 降格回避実現の手段となった3バックにおける吉田の働きには、指揮官も試合後の会見で次のようにたたえている。

 「リーグ戦での初采配がアウェイでのウェストハム戦(31節)だったのだが、3-0の完敗を喫した。あの時点で、チームが自信を取り戻すためには、その基盤となる後方の安心感が必要だと感じてね。そこで、(けがから復帰した)マヤ(吉田)を先発イレブンに呼び戻すことにした。結果を見ればわかるように、チームの力になってくれたよ。人間的にも素晴らしい男だ。(サウサンプトンで)もう5、6年やっているから、クラブへの思い入れも非常に強い。その点も重要だと感じていた。クラブのために、ピッチ上で必死に戦って、クラブが陥ってしまった状況(降格の危機)から抜け出す決意を示すことのできる選手を必要としていたんだ。マヤは完璧にやってくれたよ」

 就任当初、ピッチ上のリーダー不足を指摘していたヒューズは、その点に関しても、「彼は常にリーダーシップのクオリティーを示してきた。素晴らしいやつだよ。彼と一緒に仕事をすることができてうれしく思っている。人間としても選手としても優れたクオリティーの持ち主だ」と、吉田を評した。

 降格回避の指揮を任せたヒューズの任期は、最終節を持ってひとまず終了。サウサンププトンは、現時点では新契約でのヒューズ体制継続が濃厚と思われる監督人事を含め、来季プレミアに向けた準備に入ることになる。だが、吉田には、昨年8月にサウサンプトンと新3年契約を結んだプレミアでの来季の前に、ロシアでのW杯が待ち受けている。

 日本代表の最終ラインにとっての吉田は、サウサンプンにとって以上に、CBとしての能力はもちろん、経験値とリーダーシップの面でも不可欠な要だ。代表CBが、クラブでは前体制下での試行錯誤の中で前半にベンチも経験し、後半には2度のけがで戦列を離れる不運にも見舞われたが、最終的にはスタメンに復帰してコンディションも上げ、最終節では、試合中継局『スカイスポーツ』のマッチリポートでマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたサウサンプトンの今季は、日本にとっても前向きに幕を閉じた。

 最終節後のファンに対する感謝の場内一周に、まだ幼い長女を抱いて笑顔で参加した吉田が、クラブでの一仕事を終えてW杯へと向かう。

(山中忍通信員)