プレミア得点王サラー、超スターの愛車はカローラ

13日、ブライトン戦の前半、先制ゴールを決めガッツポーズするリバプールのモハメド・サラー(ロイター)

<ズドラーストヴィチェ!~こんにちは~(8)>

 ワールドカップ・ロシア大会の注目ストライカーの1人が、エジプト代表のFWモハメド・サラー(25=リバプール)だ。今季はプレミアリーグで32得点を挙げて得点王に輝き、イングランド・サッカー選手協会の年間最優秀選手賞などを受賞。クラブを13季ぶりの欧州CL決勝(日本時間27日)に導き、今年のバロンドールに推す声も高まっている。世界の話題をお届けする「ズドラーストヴィチェ!(ロシア語でこんにちは)」の第8回で、「ザ・ファラオズ(エジプト代表の愛称)」の大エースの素顔に迫ります。【取材・松尾幸之介】

 W杯はサラーの大会になるかもしれない。今季から加入したリバプールでは、スピードあふれるドリブルと高い決定力を武器に開幕から得点を量産。マンチェスターU時代のロナルド(Rマドリード)らの31得点のリーグ最多得点記録を更新した。今季は史上最多3度の月間MVPに輝き、イングランド選手協会とアフリカ年間最優秀選手賞などの栄誉を手にし、一気に世界から注目されるアタッカーへと駆け上がった。

 母国エジプトでの人気も絶大だ。アフリカ最終予選は出場5試合で5得点。昨年10月のコンゴ共和国戦では、後半ロスタイムに劇的な勝ち越しPKで28年ぶりのW杯出場を決めた。このゴールが国民の心をガッチリつかんだ。首都カイロではサラーを起用した企業の看板が目立ち、市場ではサラーの顔を描いた絵やユニホームが売られている。地元テレビ局「ガド・ニュースチャンネル」で長年スポーツを担当するアフマド・サミー氏(34)は「サラーは結婚して子どももいるが女性人気も高く、彼がいるから代表を応援している人もいる。ヒゲのパーマが格好いいという声が多い。私は日本にもキングと呼ばれる三浦知良という選手がいるのを知っている。日本で言うなら、サラーは三浦選手に匹敵するぐらいの選手になるだろう」と話す。

 称賛の声が集まる背景には謙虚で努力家な人柄にもある。17歳でプロキャリアをスタートさせたアラブ・コントラクターズ(エジプト)のモフセン・サラーハ会長(64)は「性格はピュアで常識人。目標実現に向けて真摯(しんし)に向かっていける選手。今でもクラブを訪問して練習を見学し、若手選手との写真撮影もしてくれる」と感謝する。欧州クラブを渡り歩く際はすぐにイタリア語や英語を習得。監督の戦術を正確に理解し、順調なステップアップへつなげた。

 カイロから北西へ車で3時間。サラーの故郷ナグリグ村では、優しさがさらに垣間見える。道路も舗装されておらず、時折馬車も行き交う小さな集落。その中心にはサラーが全額出資した病院と、建設中の子ども用の集会所がある。少し歩くと実家があり、家の前にはサラーが若手時代から乗るトヨタのカローラが止まっていた。モスクや児童養護施設への寄付も積極的で、広場ではサラーのユニホームを着た子どもたちがボールを蹴っている。サラーと小中学校の同級生だったマフムード・アブデル・アジーズ・カーデル氏(25)は「彼もここの広場でいつもサッカーをしていた。誰よりもボールを蹴っていたし、速くてうまかった。でも自慢話とかは絶対にしないし、今でも戻ってくると地元のみんなとサッカーをするんだ」。

 エジプトの小さな村から生まれたスーパースターが、W杯を席巻する日が迫っている。

 ◆モハメド・サラー 1992年6月15日生まれ、エジプト・ガルビーヤ県出身。小学4年でサッカーを始め、県都タンタのクラブを経て、14歳でアラブ・コントラクターズの下部組織へ入団。17歳でプロ契約を結ぶ。12年にスイス1部バーゼルへ移籍し、チェルシー、フィオレンティナ、ローマを経て、17年6月からリバプール。エジプト代表では11年U-20W杯、12年ロンドン五輪出場。同五輪準々決勝では日本と対戦。11年にA代表デビューし、通算58試合35得点。家族は両親と妹、弟。175センチ、69キロ。