ボローニャ先輩が考えるDF冨安健洋の可能性

会見を開いた、左からアレッサンドロ・ジャンニ氏、ニコロ・タッソーニ・エステンセ参事官、フランコ・バレージ氏、平林孝昭氏、マヌエル・ベッレーリ氏(撮影・村上幸将)

<ACミラン フランコ・バレージ氏が語る…その2>

ACミランとイタリア代表で一時代を築いた、DFフランコ・バレージ氏(59)が、ACミラン・アカデミー東京の東京スタジアム校が11月19日に開校するにあたり、来日した。バレージ氏がニッカンスポーツコムの単独取材に応じた。第2回は「ACミランが考える日本人選手の育成と、冨安健洋の可能性」。

【聞き手・構成=村上幸将】

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ACミラン・アカデミー東京は、世界に25カ所あるACミラン・アカデミーの1つで、11月9日から東京・調布市のアミノバイタルフィールドをメイングラウンドに本格始動する。バレージ氏は、その支援のために13年6月以来、6年ぶりに来日した。

バレージ氏 新しい開校をサポートするために来日したんだ。詳しくは彼に聞いてくれ。

そういってバレージ氏は、実際に指導するマヌエル・ベレッリ・テクニカルディレクター(42)を紹介した。ベレッリ氏はセリエAのエンポリ、ウディネーゼ、ラツィオ、アタランタ、レッチェでDFとしてプレーした。

ベレッリ氏 偉大なバレージが(アカデミーを)リニューアルする今回、来日して新たなプロジェクトを後押ししてくれた。私は、サッカー選手になりたいという子どもたちの夢を実現するために、年間で1つ1つの動きを考えて300~400の練習メニューを用意しています。これまでの実績としては、あるスクール生が2年、学んで、個人レッスンを受け、日本のチームで活躍している例があります。

ベレッリ氏が最も、力を入れたいと考えているのは、日本人が一番苦手な「自分たちの頭で考えるプレー」を磨く指導だ。

ベレッリ氏 日本なりの教育方針はあると思うけれど、1人で問題解決することが難しいのが問題だと分かっています。プレーする時は、監督もいないので、ピッチ上で1人で問題を解決していかないといけない。まずは自分で考えるのが、すごく大事だと思う。

-欧州の各クラブでは、攻守におけるプレー原則を積み重ねたチームの設計図「ゲームモデル」がある。選手はそれにのっとってプレーするが、自分たちの頭で考えるという大前提の上で、オートマティズムに動いているのではないか?

ベレッリ氏 日本人、イタリア人にかかわらず、全ての選手がピッチ上でパス、シュートなど、1人で問題解決することが必要。日本は協力して集団生活をやっていく国なので、1人で問題解決するというACミランの哲学を加えることは、きっと日本人の役に立つと思いますよ。

バレージ氏 私はACミランの下部組織から育ってきたわけですけど、ACミランの哲学に沿ってやってきたから、1人で問題解決して戦っていけた。練習で間違ってしまうと、それが試合にも反映されて、失敗が起こってしまう。監督はいるけれど、試合で実際にプレーするのはピッチ内にいる11人の選手。1人で問題解決をしないといけないから、練習の中でも、個人で解決できるような練習をしていくのが重要。

-日本の子どもたちの中で、光る才能をイタリアに連れて行きたいと本気で考えているか?

ベレッリ氏 (18歳未満の国際間移籍を制限する)国際サッカー連盟(FIFA)の規定をクリアする年齢に達した上で、イタリアに行きたいと言う子がいたら、もちろんサポートします。アカデミーのバックグラウンドを支えている、偉大な人たちに提案することも出来ます。

バレージ氏と、ともに来日したACミランの役員アレッサンドロ・ジャンニ氏が、ベレッリ氏の発言を補足した。

ジャンニ氏 (アカデミー生が将来、必ず)ACミランでプレーするということじゃなく、アカデミーで育ち、ACミランの哲学を学んだ選手が、世界のどのビッグクラブでも羽ばたいていくことを我々は応援しています。

バレージ氏 まだ10歳、11歳の子どもが将来、何になるかは分からないだろう? 起業家になったり、医者になったり…どのような職業に就いて、どのような活躍をしても、我々は職業にあった活躍をして欲しいと思っているよ。

ベレッリ氏は現役時代に、元日本代表MF中田英寿氏と対戦した経験がある。また日本代表DF冨安健洋(20)が今季からプレーするボローニャにも08-09年に在籍し、現在もチームを率いるシニシャ・ミハイロビッチ監督(50)の指導を受けた“先輩”だ。

ベレッリ氏 私は、中田英寿選手と、よく対戦しました。クオリティーが良く、集中力が高く、パーソナリティーを持っている選手という印象がありました。よく覚えているのは、彼がローマ在籍時代にセリエAで優勝し、スクデットを取った時です。

バレージ氏 中田は、僕と同時代にプレーしなくて幸運だったな(笑い)

-ボローニャの後輩に当たる、DF冨安健洋についてはどう思う?

ベレッリ氏 冨安は、パーソナリティーと高い技術を持っている選手だと思います。僕も09年、ボローニャでプレーしていた時、ミハイロビッチの元でプレーした経験があるが、とても厳しい監督だった。あのミハイロビッチが使っているのだから、それだけのクオリティーがあるのだろうし、すごくいい結果を出しています。

-具体的に、冨安のどこが良いか?

ベレッリ氏 テクニックのレベルが非常に高い。でも、それは冨安にだけではなく、日本人選手の全てにおいて言えること。日本人選手の技術…特にパスの精度は、すごく高い。その良い例が、インテル・ミラノでプレーした左サイドバックの長友佑都(現ガラタサライ)。彼のクロスの精度は印象的だった。

-ミハイロビッチ監督は、日本ではセンターバックとしてプレーしていた冨安をサイドバックにコンバートした

ベレッリ氏 現代のサッカー選手に言えることだが、すごく器用な選手が多い。その器用さを、ミハイロビッチがうまくサイドに適応させたのだろう。

次回は、1994年(平6)のセリエA開幕戦で対戦した、横浜FCカズ(三浦知良=52)への思いと、日本へのメッセージ。