【欧州CL】決勝T1回戦の第2戦は残り4試合 W杯経験したセルビア代表の喜熨斗コーチが分析

喜熨斗勝史(2022年10月撮影)

サッカー、セルビア代表のアシスタントコーチを務める喜熨斗(きのし)勝史氏(58)が、欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦第2戦の残り4試合の行方を占う。22年のFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会で、ストイコビッチ監督の右腕としてベンチ入り。指導者として世界トップレベルを体感してきた同氏が、14、15日(日本時間15、16日)に行われる4試合を独自の視点で分析した。

【取材・構成=菅家大輔】

   ◇   ◇   ◇ 

【ポルト-インテル・ミラノ(14日=日本時間15日)】

第1戦はインテル・ミラノが優勢に試合を進めました。0-0が続いた後半13分にベルギー代表FWルカクを投入し、結果的にそのルカクが同41分に決勝点を奪いました。あのタイミングでベンチにルカクという切り札がいるインテルの選手層の厚さは大きい。ポルトは同33分に退場者を出して1人少ない状況に陥ったことも響きました。

ポルトではセルビア代表で指導するMFグルイッチが90分間出場しましたが、試合後に会話した時「インテル・ミラノの攻撃に対して守ることができると感じたし、ホームならいけると思う」と手応えを感じた様子でした。

第1戦を終え1-0でインテル・ミラノがリードしている状況ですが、第2戦はポルトのホーム。ポルトガルのファンは本当に熱いですし、いい雰囲気になる。インテル・ミラノはナポリほど強くないので、ポルトがホームの声援に背中を押してもらえれば、いけるかもしれないですね。

両チームともベテランが多く年齢が高い。連戦続きの中で起用法含め、どのようにマネジメントしてくるのか。第1戦のリードがあるインテル・ミラノ有利は変わりませんが、ポルトが追いつけば面白いですよね。2試合180分を1試合と考えれば、まだ前半を終えたばかりですから。

【マンチェスター・シティー-ライプチヒ(14日=日本時間15日)】

第1戦はマンチェスターCがポゼッション(ボール支配率)73%で圧倒しましたが、結果的にドローでした。ライプチヒはW杯の日本を参考にしたのでは? と思うくらいひたすら守りました。前半0-1ならOKというくらいの感じでした。後半が始まり相手が疲れた時にパッと攻めて追いついて、また守った。ライプチヒにとってはホームゲームでしたから、あわよくば勝ちたかったとは思いますが、堅いゲーム運び、ストラテジー(戦略)を徹底した気がします。

マンチェスターCは、とにかく攻めよう、そのうち入るでしょうという感じでしたが、結果的に白星を手にすることはできませんでした。

選手起用の面で驚いたのは、マンチェスタCのグアルディオラ監督が故障者以外の選手を起用し、1-1で試合が進む中でメンバーチェンジもしなかったことです。ライプチヒがあれだけ守り、膠着(こうちゃく)状態が続いていたので、選手交代で流れを変える策もあったはずですから。次の試合のプレミアリーグ、ボーンマス戦も、ターンオーバーするかと思ったらCLから2人しか変えず、ほぼ同じメンバーで臨み、4-1で勝っていました。

グアルディオラ監督の選手起用について「なぜ」という部分を知りたいですし、その采配にすごみを感じました。

第2戦でグアルディオラ監督は0-0の時間が長かった時にメンバーを変えるのか否かを、見てみたいです。マンチェスターCは交代の“タマ”はたくさんいるので。

第1戦は4-2-3-1のミラーゲームでしたが、フォーメーションをいじってくるのかどうかも注目ですね。個人的にはマンチェスターCは良いチームなので良い試合をしてもらいたいです。セルビア代表MFイリッチ(現トリノ)がマンチェスターCのアカデミーで育ったというのもありますし。

対するライプチヒは残る「後半90分」をどのように戦うのか。アウェーだし難しい戦いになるとは思いますが、0-0の時間が長くなればなるほどチャンスが出てくると思います。それと、第1戦でDFグバルディオルがヘディングで得点しましたが、あのジャンプ力はすごかったですね。

いずれにしてもスタジアムの雰囲気、サポーターの声のボリュームも感じてほしいです。

【ナポリ-アイントラハト・フランクフルト(15日=日本時間16日)】

第1戦は、セリエAでダントツ首位のナポリとフランクフルトの地力の差が出た試合になりました。

シュート数も15-5、枠内Sもフランクフルトは1本のみで、ポゼッションも70%-30%でナポリが圧倒しました。

フランクフルトに退場者が出て数的不利に陥ったことを差し引いても、フランクフルトからすれば2-0で終わって良かったなといった感じではないでしょうか。

ナポリはDFが安定している。韓国人CBキム・ミンジェと右SBのディ・ロレンツォが良いですね。ナポリの強さは守れるし、点が取れる。特に守りが素晴らしい。

攻撃に移る時、守備に移る時の切り替えがすさまじく速い上にボールを回せる。全員が高水準でボールを扱える。ナポリが順当に勝って次、どこと当たるか。よほどのところと当たらなければ、準決勝くらいまでは進むのではと思いました。

一方のフランクフルトはDFが安定していないように感じました。DF長谷部選手が出場する機会があるかもしれませんね。余談ですが、以前、フランクフルトにはセルビア代表MFコスティッチ(現ユベントス)がいて、同サイドでコンビを組んでいた鎌田選手と会話した際に「ピッチ上のコスティッチは大好き」と言っていたほど良いコンビだったんですよ。

【レアル・マドリード-リバプール(15日=日本時間16日)】

第1戦の試合展開には驚かされました。Rマドリードが大逆転したという事実はもちろんのことですが、世界的名手のRマドリードGKクルトワ、リバプールGKアリソンの大きなミスで試合が動いたということにです。

これもまたCLだと思います。あの2人でさえ、CLという環境下では、あのようにあり得ないミスを犯してしまうのかと。私もW杯カタール大会を経験しましたが、セルビア代表の選手たちもW杯独特のお祭りのような雰囲気にのまれたのか、普段通りのプレーができませんでした。CLでも同じような状況に陥るんだなと感じました。

ただ、クルトワやアリソンのクラスになるとミスを引きずりません。その後は淡々といつも通りのプレーをしていました。日本人にはなかなかないメンタルなのかもしれませんね。

国民性や個人の資質的なものは当然あると思いますが、世界トップクラスで日々戦うことで養われた部分もあるのではないでしょうか。だから、日本人選手もどんどんCLでプレーする機会をつかんで、その舞台で戦うことで技術やメンタルを高めることができればと感じます。

リバプールはプレミアリーグでも低迷しています。CLとの掛け持ちで心身ともにコンディショニングが難しい状況になっている気がします。第1戦も2点を先行して行けるかなと思ったんでしょうけど、Rマドリードの地力、決して慌てないアンチェロッティの采配によってひっくり返されてしまいました。第2戦はFWジョタ、フェルミーノら第1戦で途中出場だった経験豊富な選手たちを先発で使うのかどうか。18歳のMFバイチェティッチにも注目したいですね。

彼はスペイン生まれスペイン育ちで育成年代のスペイン代表に入っていますが、両親はセルビア人。彼自身、純粋なセルビア人なので、セルビア代表コーチを務める立場としては気になりますね。

Rマドリードは第1戦で2点をリードされながら前半で追いつけたことが大きかったと思います。ベンゼマら、ゴールを取るべき人が取りました。第2戦はホームゲームですし、ベテランと若手が融合したチームは安定感があります。得失点差もありますし、有利であることは間違いありません。

(セルビア代表アシスタントコーチ)

◆喜熨斗勝史(きのし・かつひと)1964年(昭39)10月6日生まれ、東京都出身。日体大卒業後、関東1部リーグでFWとしてプレー。教員をへて、東大大学院総合文化研究科に入学。97年に平塚(現湘南)でプロの指導者に。C大阪、浦和、大宮、横浜FCでフィジカルコーチを歴任。04年以降、カズ(三浦知良)のパーソナルコーチを務める。ストイコビッチ監督とともに、08~15年8月まで名古屋でフィジカルコーチ、同年から19年まで中国1部広州富力、21年3月からセルビア代表アシスタントコーチを務める。