「代理人は眠らない」―遠藤航のリバプール移籍や10代の海外挑戦を手掛ける遠藤貴氏が新著出版

著書「代理人は眠らない」を発表し取材に応じた遠藤貴氏

リバプールMF遠藤航(30)シュツットガルトDF伊藤洋輝(24)らの代理人を務める株式会社ユニバーサルスポーツジャパンの代表取締役、遠藤貴氏(51)が著書「代理人は眠らない~世界への路を拓くサッカー代理人の流儀~」(徳間書店)を出版した。

04年にイングランド協会(FA)認定の代理人ライセンスを取得し、数多くの選手を海外移籍に導いてきた。著書では、最新のビッグディール(大型案件)となった遠藤のプレミアリーグ名門への移籍など、自身の経験をつづった1冊になっている。

このほど、日本人選手の評価の変遷や、高卒選手が即海外挑戦するメリット、海外で成功する秘訣(ひけつ)などを聞いた。【取材・岩田千代巳、岡崎悠利】

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今夏、遠藤氏は、日本代表主将のボランチ遠藤航のリバプール移籍を実現させた。30代の選手としては破格の4年契約、移籍金は30億円以上(推定)に上る。

約20年前、川口能活(現ジュビロ磐田コーチ)の日本人GK初となる欧州移籍に関わった際は、まだ「スポンサーは付くのか」「グッズは売れるのか」などと聞かれたことを思い出す。

当時を回顧しながら、しみじみと振り返った。

「(MF遠藤を)30億円の価値があると思って獲得してくれている。正直、日本人の価値がここまで上がったんだ、とすごく肌で感じた移籍でした」

最近は10代の海外移籍にも変化が起きている。高校卒業後、日本国内のプロであるJリーグを経由せず、海外移籍にダイレクトに挑戦する例が増えてきた。

遠藤氏が手掛けるパリ五輪(オリンピック)世代のDFチェイス・アンリ(19=福島・尚志高→シュツットガルト)もその1人だ。

ひと昔前は、高卒で直接渡欧した選手の成功例が少なかった。しかし、今は違う。サガン鳥栖U-18出身のMF福井太智(19)は、ブンデスリーガ11連覇の絶対的王者バイエルン・ミュンヘンでトップチームデビューを果たし、チェイス・アンリもクラブのセカンドチーム(ドイツ4部に所属)を主戦場に、公式戦で経験を積んでいる。

鹿児島・神村学園高から直接のFW福田師王(19=ボルシアMG)や、福井と同じく鳥栖の下部組織で育ったFW二田理央(20=オーストリア2部ザンクトペルテン)ら、飛躍が期待される有望株が増えてきた。

遠藤氏は実感を込めて語る。

「実際、日本人選手が評価されていると感じます。昔は“スポンサーも来るんでしょう”というノリでしたが、今は、成功しているプレーヤーを見て“自分たちもそういう選手を獲得したい”となってきました。以前はアジアの小国でしたけど、今のサッカー界で日本は大きな中心の国だと感じています」

18年FIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会では、決勝トーナメント1回戦でベルギーと大接戦の末に2-3で惜敗。22年W杯カタール大会では優勝経験国のドイツ、スペインを連破した。代表の評価に比例し、日本人選手の価値も上がっていることを実感している。

欧州クラブがスカウトの判断材料にする試合は、Jリーグではなく日本代表戦だ。世代別や高校選抜なども含まれるという。そこから10代で海外挑戦するケースが増えた中、メリットとして「即、トップレベルを経験できること」と遠藤氏は言う。

「チェイス・アンリは、試合こそセカンドチームで出ていますが、ほとんどの練習はトップチームと一緒にやっています。伊藤洋輝もそうでした」

実際、チェイス・アンリがセカンドチームで高いパフォーマンスを見せ、遠藤氏が「伸びたね」と褒めたところ、本人は「トップチームで(練習を)やってますから。(ブンデスリーガ得点ランキング1位の)ギラシを抑えているんですよ」と話したという。練習から世界のトップレベルを体感できるのは、欧州クラブならではだろう。

また、現地にはU-19、U-23チームがあって各年代で公式戦の経験が踏めるが、Jリーグでは、高卒の選手が即、試合に絡むのは難しい。一時はJ3に参戦するU-23チームなどもあったが、現状ではルヴァン杯、天皇杯と、公式戦の場が少ないのも事実だ。

「Jリーグで試合に出ていなかったら、見せる場がない。そうすると代表でどうにかするしかないんですが、Jで出ていない選手と烙印(らくいん)を押された状態になると、やはり難しい」

だからといって、やみくもに海外移籍を勧めるわけではない。必要なこととして「精神的な成長度合い」「欧州でやっていけるメンタリティー」「語学」を挙げる。

「ちゃんと、自分を律することができるか。(遠藤)航の場合は、英語のレベルも含め、全ての過程で準備のステップを踏んでいました。シントトロイデンに行くまでは、勉強はしていましたが、英会話はそこまでできなかった。シントトロイデンで英語が話せるようになって、シュツットガルトでかなり流ちょうになって、今やリバプールでネーティブのように話している。“サッカーのピッチでは英語は必要ない”と言う人はいますが、実際、オフの時も大切なコミュニケーションの場。海外で成功している選手はほとんど言葉を話せていますよね」

コミュニケーション能力を含め、言語の準備も海外での成功を左右するといっても過言ではない。

テレビ電話のアプリやインターネットの普及で、日本と欧州の距離も近くなった。テクノロジーの進化で欧州クラブが日本人選手のプレー映像を自在に見て、スカウトできる時代になっている。10代選手の欧州挑戦も新時代に入った。

今後、どんな選手がビッグクラブへ羽ばたくのか。日本代表の飛躍とともに目が離せない。

◆遠藤貴(えんどう・たかし)1972年(昭47)5月15日、東京都生まれ。97年に渡英。プレミアリーグ・アーセナルで勤務経験を持つ。04年、イングランドサッカー協会認定の代理人ライセンスを取得。05年にエージェント会社「ユニバーサルスポーツジャパン」を設立。22年にオーセンス法律事務所と資本提携。現在は遠藤、伊藤、鹿島FW鈴木優磨、G大阪FW鈴木武蔵、札幌のペトロビッチ監督らを担当している。