9月27日~10月6日にカタール・ドーハで開催される陸上の世界選手権。トラック、フィールドの個人種目で最も表彰台に近い位置にいる日本人とされるのが男子走り高跳びの戸辺直人(27=JAL)だ。


2019年日本選手権で優勝し、メダルを手に笑顔の戸辺
2019年日本選手権で優勝し、メダルを手に笑顔の戸辺

国際陸連のランキングでは7月23日に1位となり9月10日現在、その座を維持している。今季の充実ぶりは目覚ましい。2月には2メートル35の日本新記録を13年ぶりに樹立。世界室内ツアーも日本人で初優勝を飾った。世界で転戦を重ねるスタイルを続ける。先月29日のダイヤモンドリーグ年間上位選手が争うファイナルは、2メートル27で5位。優勝を狙っていただけに満足はなく、悔しい思いが募った。しかし約10日前に左かかとを打撲し「恐る恐る」の跳躍だったことを考慮すると、再発の恐怖心も払拭(ふっしょく)され、同時に世界選手権への手応えをつかんだ。


今年6月の日本選手権で優勝した戸辺
今年6月の日本選手権で優勝した戸辺

今季の飛躍の裏には技術を突き詰めたことがある。以前は7、8、9歩など複数の歩数で練習していたが、助走の歩数を、どの会場でも可能な6歩に固定した。同じ動きを繰り返すことで、踏み切りの技術は安定。また踏み切りの瞬間、両腕を一緒に振り上げていたが、昨年9月から世界の主流とは異なる片腕を上げて踏み切るフォームに変更した。本番までは踏み切りまでの3歩で、重心が上がらないよう意識を強め、調整に励む。

日本記録を出してからは、その先を狙う試行錯誤を開始した。春以降、踏み切り位置を約30センチ下げ、以前よりバーから離れた位置から跳び、より大きな放物線を描ける角度で跳ぶことが狙うようにした。それまでは最高到達点がバーを超えた先となることもあったが、それを確実にバーの上に持ってくる狙いもある。「視覚的にバーをとらえる時間差」が生まれ「空中動作の修正」も求められた。悩んだ時期もあったが、ようやく、いい感触を得ている。


6月の日本選手権で優勝し、客席にガッツポーズする戸辺
6月の日本選手権で優勝し、客席にガッツポーズする戸辺

世界選手権は2015年の北京大会に続き2度目の挑戦となる。「五輪を見据えて、自分がアピールする。メダル、優勝でアピールしたい。2メートル40が達成できればそれも見えてくる。金メダルを取れるように頑張りたい」。男子走り高跳び界は本命不在の混線だ。だからこそ、その言葉が現実となる期待も高まる。


◆戸辺直人(とべ・なおと)1992年(平4)3月31日、千葉・野田市生まれ。筑波大卒業後、つくばツインピークスをへて19年から日本航空。野田二中で全国中学大会を制す。専大松戸高でも09年の高校総体で優勝し、同年の新潟国体では2メートル23の高校新記録を樹立した。世界ジュニア選手権銅メダル。15年世界選手権は2メートル26で予選落ち。16年リオ五輪、17年世界選手権は出場できなかった。194センチ、72キロ。