陸上男子100メートル前日本記録保持者の桐生祥秀(24=日本生命)が3日までに、高校生とオンラインで対談した。

10秒前後で勝負が決まる100メートル。100分の1秒で天と地を分けることもしばしば。メンタル面が勝敗を分ける要素も大きく、スタートラインに立った時の心得を明かした。

「2番になっていいとは1ミリも思っていない。誰が横にいようが、絶対に1番にゴールすると心に決め、スタートするようにしています。いい意味で自分をだましたりしますね。『この中ならば、断然トップだろ』と言い聞かせる時もあります」

たしかに、昔は勝負弱いと言われることもあった。4年前のリオデジャネイロオリンピック(五輪)では100メートル代表3人の中で、ただ1人の予選落ちの屈辱も味わった。トップでゴールできない自分が頭をよぎった時の結果は決まって悪かった。

「過去にあったんです。スタートラインに立った時に、これは1番取れるかな…と(不安に)思ったレースは全然ダメだった」。

でも今は世界を相手にも実力を発揮できる。以前はムラがあったタイムも、昨季だけで10秒0台は7度と高いレベルで安定する。その下地には過去の苦い経験を経て、たどり着いた強気を貫くメンタルがある。

失敗は成長の糧になるが、失敗ばかりを見つめては、気持ちが落ちる。中高生へのアドバイスも付け加えた。

「どうしてもタイムや順位が悪かった時は、悪かった部分を見てしまう。でもまずは、いいところを見つける。そこから失敗を考える。悪いことばかりだとネガティブになるし、次のレースへの欲がなくなってしまう」

これも自身が実践する競技への向き合い方だ。

このイベントは男子マラソンの大迫傑(29=ナイキ)、女子100メートル障害の寺田明日香(30=パソナグループ)と一緒に取り組んでいる、総体が中止となった高校生を支援する企画「日本生命 高校陸上ウィズ・アスリート・プロジェクト」の一環。未来のために惜しみなく、経験を伝えている。