1500、3000メートルで日本記録を持つ田中希実(21=豊田自動織機TC)が壮絶なレースで1着を勝ち取った。2組で2分6秒72を記録。

今月の日本選手権を制した川田朱夏(東大阪大)の2分6秒78をわずかに上回り、全体でもトップで優勝を果たした。

左膝をすりむいた田中が、落ち着いた表情でクライマックスを振り返った。

「本当に足が上がらなくて力が抜けていた。『膝カックン』された感じで、全身の力が抜けていました」

1周目は7人の最後方を走り、2周目に入ったところでギアチェンジ。川田を一気に振り切り前に出たが、ラストの直線でその差が詰まってきた。最終盤に全ての力を出し尽くした田中は、足がもつれて転倒。それでもゴールラインは切っており「ギリギリ胸がラインを越えていて『これはどうなんだろう?』と思いました。勝ちたい思いが本当に強かった。負けていたとしても、あそこまで出し切れたら最下位でも悔いはないと思いました。優勝できてうれしかった」と胸をなで下ろした。

今季ブレークした田中の主戦場は5000メートル。それでも「800メートルから5000メートルまで走れるマルチランナー」を目指して、今月の日本選手権でも優勝した1500メートルと合わせて、800メートルにも出場した。スピードが求められる800メートルでは4位。この日、1周目で最後尾につけたレース運びも、自分の特徴を把握した上でのプランだった。

「800メートルの選手は2周目が落ちる。私は長距離の強みを生かして、2周目を上げたいと思いました」

壮絶なレース後は「少し左肩が気になります」と体の状態を説明。今後は12月4日に同会場で行われる長距離の日本選手権が大一番となる。すでに5000メートルで東京五輪の参加標準記録を突破しており、優勝すれば代表に内定する。

「5000メートルで優勝して、五輪の権利を確実に取れるようにしたいです」

800メートルで得た自信を、得意の距離に生かす。【松本航】