室伏広治が銀!長距離以外で日本初メダル/復刻

2001年8月7日付日刊スポーツ1面(東京版)

<日刊スポーツ:2001年8月7日付>

 プレーバック日刊スポーツ! 過去の8月7日付紙面を振り返ります。2001年の1面(東京版)は室伏広治が日本投てき陣で初のメダル獲得でした。

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<陸上世界選手権>◇5日(日本時間6日)◇コモンウェルス・スタジアム◇男子ハンマー投げなど決勝4種目ほか

 「新鉄人」がついにやった。男子ハンマー投げの室伏広治(26=ミズノ)が、銀メダルを獲得した。2投目に82メートル46でトップに立った。優勝目前の5投目でシドニー五輪金メダルのシモン・ジオルコフスキ(25=ポーランド)の83メートル38に逆転されたが、その直後に82メートル92で追い上げるなど、力をすべて出し切った。日本投てき陣のメダル獲得は、五輪、世界選手権を通じて初。9位に終わったシドニー五輪後、正確性、安定性を追求し続け、日本陸上界に新たな歴史を刻んだ。

◆男子ハンマー投げ◆

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(1)ジオルコフスキ(ポーランド)83メートル38

(2)室伏広治     (ミズノ)82メートル92

(3)コノワロフ    (ロシア)80メートル27

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(世)セディフ      (ソ連)86メートル74

(日)室伏広治     (ミズノ)83メートル47

 

 西日を浴びたバックスタンドから、手拍子が自然にわき起こった。室伏最後の6投目。再逆転を狙った投てきも、金メダルに届かなかった。だが、世界ハンマー史に残る激闘に、だれもが引き込まれていた。「精いっぱいやりました、自分のできることを…」。日の丸をマントのように広げて、ジオルコフスキとウイニングラン。めったなことでは喜びを表さない男の派手なパフォーマンスが、満足度の大きさを示していた。

 2投目に82メートル46でトップに立った。室伏で決まりだ―。スタンドの空気が、日が陰るとともに緩んでいった。だが、シドニー五輪金メダリストは勝負を捨てていなかった。ジオルコフスキが、5投目に自己ベストを91センチも更新する83メートル38でひっくり返した。「すぐに投げ返さないといけないと思った」。室伏は5、6投目にも82メートル台を連発し、今季世界ランク1位の意地と底力を見せつけた。

 1投目がメダルにつながった。79メートル91で4投目以降に進めるベスト8入りをほぼ確定させた。2投目から勝負をかける投てきができた。「今日はいかに思い切り投げられるかだけでした。うまくいったと思う」。精神的に落ち着いた後は82メートル台が3度、81メートル台が2度で、平均飛距離はもちろんNO・1。真に世界最高レベルのシリーズを残した。

 シドニー五輪の苦い経験が生きていた。メダルを期待され、予選3位の成績で決勝に進んだ。しかし、雨が上がった直後のサークルに足元を滑らせ、1投目は80メートル近く飛ばしながらエリア外に落ちるファウルになった。それで心が乱れ、9位に終わった。その反省から今季前の練習テーマは方向性重視。エリアの真ん中、角度にしてわずか5度の部分を狙ってひたすら投げ込みを続けてきた。

 サークル内では選手の体に約400キロもの負荷がかかる。それに耐えて高速回転を繰り返しながら、常に同じ方向にハンマーを投げ出すのは困難を極める。しかし、室伏は結果を出した。今季10試合53回の投てき中、方向性を失ったファウルは1回だけ。この日も6投すべてで記録を残せたのは、決勝を戦った12人中室伏ただ1人だった。正確性が向上するとともに記録も伸びた。4月1日に82メートル23の日本記録でスタートし、7月14日の中京大記録会では世界歴代7位の83メートル47をたたき出していた。

 父重信コーチは言った。「本人の気持ちが続けば、あと2回の五輪、4回の世界選手権は狙える」。追い風も吹く。国際陸連総会で危険防止のため03年から投てきエリアが40度から34・92度に狭められることが決まった。外国人選手が苦しむであろうルール改正が、有利に働く。来季は日本選手権以外の国内試合を極力減らして海外を転戦する方針だ。近い将来、必ず室伏の時代がやってくる。

◆優勝ジオルコフスキ「五輪より大変だった」

 5投目で室伏を逆転したジオルコフスキは「きょうの戦いに比べれば、シドニーは楽なものだった。コウジの記録を破るのは本当に大変だった」と大激戦を振り返った。83メートル38はポーランド新記録で、87年大会でリトビノフ(ソ連)が投げた83メートル06を上回る大会新。「今季はコウジに2度負けていたから、また負けなくてよかった。1、2位の差は運だと思う」とライバルをたたえた。メダリストたちは国際大会でよく顔を合わせ、気心の知れた仲。記者会見では、室伏も「練習の情報交換もできるし、欧州転戦は役に立っている」と英語で答えていた。

◆ジオルコフスキと室伏の全投てき◆

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試技 ジオルコフスキ 室伏広治

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1 81メートル88(1) 79メートル91(3)

2 79メートル69(1) 82メートル46(1)

3   ×     (2) 81メートル95(1)

4 80メートル32(2) 81メートル43(1)

5 83メートル38(1) 82メートル92(2)

6 80メートル39(1) 82メートル61(2)

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×はファウル。( )数字は順位。投てき順は常にジオルコフスキが先

◆平均なら断トツ

 惜しくも金メダルを逃したが、安定して好記録を出した室伏の高い技術は国際的にも強い印象を与えたようだ。6回の投てきで5度も81メートル以上を投げ、ファウルは1度もなし。「平均の記録だったら、抜群のトップだった」と評価する声も聞かれた。

 

◆投てきは過去6位 

 世界陸上の投てき種目で、これまでの日本選手の最高成績は87年の第2回大会(ローマ)男子やり投げの溝口和洋の6位。五輪では4位が最高。女子では32年ロサンゼルス大会やり投げの真保正子、36年ベルリン大会円盤投げの中村コウ、52年ヘルシンキ大会円盤投げの吉野トヨ子がそれぞれ4位に入り、男子では68年メキシコ大会ハンマー投げで菅原武男が4位。男子ではこのほか84年ロサンゼルス五輪やり投げで吉田雅美が5位に入賞している。

★沢木啓祐監督 これだけ素晴らしい試合を見て彼(室伏)の偉大さが確認できた。優勝と2位では大きな差があるが、これでまた将来チャレンジする気持ちになったと思う。

★青木半治・日本陸連名誉会長の話 大変な功績だ。心から祝福したい。予選はターンにスピードがなく心配したが、決勝の1投目で3位になりひと安心した。逆転されて残念だが、さらに精進を重ねアテネ(五輪)に臨んでほしい。

◆世界選手権歴代日本人メダリスト◆

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年   大会      結果 選手名     (競技)

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91年 東京       金 谷口浩美  (男子マラソン)

             銀 山下佐知子 (女子マラソン)

93年 シュツットガルト 金 浅利純子  (女子マラソン)

             銅 安部友恵  (女子マラソン)

97年 アテネ      金 鈴木博美  (女子マラソン)

             銅 千葉真子(女子1万メートル)

99年 セビリア     銀 市橋有里  (女子マラソン)

             銅 佐藤信之  (男子マラソン)

01年 エドモントン   銀 室伏広治(男子ハンマー投げ)

◆ハイレベル

 今大会の男子ハンマー投げは、非常に高いレベルで決着した。ジオルコフスキの優勝記録83メートル38は世界歴代11位。87年ローマでの大会記録83メートル06を14年ぶりに破った。下位の記録もレベルが高い。気象条件などが異なるため、単純比較はできないが、今回の8位記録79メートル34は、シドニー五輪なら銅メダル、99年セビリア大会なら銀メダルに相当。一般的に勝負重視となる世界大会は記録が抑え気味になる傾向が強いが、今回は好記録が続出。

 

◆室伏のシドニー後

 ▼00年10月5日 国際GP年間ポイント8位までが参加できるファイナル(カタール)。五輪後初の試合で80メートル32の2位。

 ▼同8日 00年最終戦の日本選手権。強行日程の影響で76メートル39と不振ながら6連覇を達成。

 ▼01年4月1日 今季初の公式戦、梅村学園記録会で82メートル23の日本記録。五輪直前のスーパー陸上(横浜)で出した81メートル08を1メートル以上も更新した。

 ▼同7日 中京大記録会で82メートル60。1週間で2度目自己新。

 ▼同29日 織田記念で81メートル35の大会新。雨の中、3戦連続80メートル超え。

 ▼5月12日 大阪国際GPで82メートル超えを3投そろえ、82メートル59で優勝。

 ▼同25日 東アジア大会(大阪)で79メートル68大会新V。

 ▼6月29日 国際GP最高峰のゴールデンリーグ(ローマ)で日本人初優勝。79メートル50。

 ▼7月14日 中京大記録会で今季世界1位、歴代7位の83メートル47をマーク。◆ハンマー投げメモ 

 ◆ハンマー 全重量が16ポンド(約7・26キロ)で、ボウリングの重いボールと同等の重さ。グリップと鉄球がワイヤでつながれている。グリップの内側から計測したハンマーの長さは、117・5〜121・5センチ。「1センチ違えば、飛距離は1メートルくらい違う」と重信氏。試合で使うものは大会主催者が用意する。

 ◆囲い 16ポンドのハンマーが、秒速29メートルの速さで動く力を阻止できるもので作られていなくてはならない。囲いはU字型で、7枚以上のパネルを合わせて作られる。高さは7メートル以上なくてはならない。

 ◆サークル 直径2メートル135。中はコンクリート、アスファルトまたは、ほかの硬くて滑りにくい材質で作る。内部は水平で、サークルの縁の上端より17〜23ミリ低くする。

 ◆投てきエリア サークルの中心から40度の角度で開いた扇形にハンマーが落ちた場合、有効試技となる。そのほかは、ファウル。

◆室伏広治(むろふし・こうじ)1974年(昭49)10月8日、静岡県沼津市生まれ。千葉・成田高から本格的にハンマー投げを始める。中京大に進み、中京大大学院の論文で「ハンマー投げの回転半径」を研究。98年4月に、父重信氏の日本記録を14年ぶりに更新する76メートル65。現在の日本記録は7月の中京大記録会でマークした83メートル47。187センチ、92キロ。