桐生祥秀、向かい風10秒04は“日本新”だった

10秒04の好タイムで1位でゴールし、苦笑いを見せる桐生

<陸上:織田記念国際兼ロンドン世界選手権代表選考会>◇29日◇エディオンスタジアム広島◇男子100メートルほか

 リオ五輪男子400メートルリレー銀メダルの桐生祥秀(21=東洋大)が、日本人で初となる3大会連続10秒0台をマークした。決勝で向かい風0・3メートルの中、10秒04。またも風に泣いて、9秒台こそならなかったが、安定感を示した。向かい風条件の日本歴代最高記録も更新。次戦のダイヤモンドリーグ上海大会(5月13日、中国・上海体育場)で10秒の壁に再挑戦する。

 決勝4時間前の予選。桐生は、9秒台だけが狙いだった。1着だったが、記録は10秒16(向かい風0・3メートル)。自信があったからこそ力んだ。腕の振りが必要以上に大きくなり、トップスピードに乗れなかった。休憩時間。土江コーチに言われた。「条件さえよければ記録は付いてくる。記録を狙うのではなく勝負をしっかりやろう」。とにかく1番でゴール。初心に戻り、決勝は無駄な力が抜けた。予選と同じ向かい風0・3メートルで10秒04。向かい風条件時の日本最高記録だった。

 桐生 アベレージは上がっていますけど、ベストを出せなかった。急いでいるわけではないですけど、出せる時に(9秒台を)出しておきたかった。

 本人は悔しがるが、数字には価値がある。10秒0台は日本人最多を更新する9度目。3戦連続は初めてだ。今季初戦のサマー・オブ・アスレティクスGPから49日、出雲陸上から6日。連戦でも確実に好記録を出せるのは地力が上がっている証し。オフから積極的に取り入れたウエートが実を結んでいる。土江コーチも「数段レベルが上がっている。(9秒台は)出ます」と話す。

 昨年12月。プロ野球楽天の松井裕樹投手(21)らと食事をした。競技は違えど世代を引っ張る同期生。スポーツの話は「まったくしなかった」と笑うが、プロとして第一線で戦ってきた姿に刺激を受けた。1学年上は野球の大谷、競泳の萩野、フィギュアスケートの羽生ら黄金世代。それに負けないように世代を引っ張る覚悟を決めた。

 9秒台は通過点と位置付ける。「そこがゴールではない」。次戦の100メートルは世界が注視するダイヤモンドリーグ上海大会。無心で走った先に、歴史的快挙がある。【上田悠太】

 ◆男子100メートルと風 追い風は走りの助力になるため、追い風2・0メートルまでが公認記録で、それ以上は参考記録となる。当然、向かい風は不利。一般的に単純計算で風速1メートルで約0・1秒の差が出ると言われる。仮に、今回の決勝が追い風2・0メートルなら、桐生は9秒台が出たとみられる。