世界舞台で10秒05サニブラウン「緊張しなくて」

男子100メートル予選で10秒05を記録し、1着で準決勝進出を果たしたサニブラウン(右)(撮影・河野匠)

<陸上:世界選手権>◇5日◇ロンドン◇男子100メートル予選

 男子100メートル予選で、サニブラウン・ハキーム(18=東京陸協)が日本勢の世界大会最速タイ記録となる10秒05(向かい風0・6メートル)をマークした。世界歴代2位の9秒69を誇るブレーク(ジャマイカ)に先着し、予選2組を1着通過。続くケンブリッジ飛鳥(24=ナイキ)は10秒21、多田修平(21=関学大)は10秒19で予選を突破した。日本勢3人がそろって準決勝に進出したのは、世界選手権と五輪を含めて初めての快挙となった。

 サニブラウンが男子100メートル新時代の口火を切った。号砲への反応は0秒167と8人中最下位。だが「あまり焦らず自分のペースでレースできた」と中盤でストライドを生かして加速した。ゴール直前、2レーンを走る18歳は一瞬、右を見た。大外9レーンにブレークが前を走っているはず。だが、いない。そのまま先頭で駆け抜けた。予選とはいえ、世界歴代2位の男に余裕を持って勝った。地鳴りのような声援が、衝撃の大きさを物語っていた。

 向かい風0・6メートルは予選6組中、最も悪条件だったが、タイムは全体6位タイの10秒05。世界選手権の日本勢最高タイムだった朝原宣治の10秒06(01年。風力計故障で記録は参考)を超えた。日本勢の世界大会最速タイムであるリオ五輪の山県亮太に並んだ。「逆に緊張しなくて、大丈夫かなと思いました。自分のレースに集中していた」と笑った。

 昔から追う立場になるほど強かった。小学生時代に所属していたアスリートフォレストTCで、リレーは決まって第2走者だった。意味がある。当時の恩師である大森盛一氏(45)は「トップで走ると手を抜くから」と苦笑いで回想する。ただ前に人がいれば、とにかく速かった。強い相手ほど自分の力も最大限発揮できる性根。だから大舞台に強い。15年の世界ユース2冠、史上最年少で出場した北京での世界選手権の200メートルでも準決勝に進んだ。この日朝は同部屋の男子400メートル代表北川から激励されると「予選で落ちる気は毛頭ないです」と言った。宣言通りで、タイムも自己記録タイだった。

 午後8時28分の18歳が見せた快走に後が続いた。16分後の同8時44分。ケンブリッジは4組4着、32分後に多田も6組4着。ともに4着以下のタイム上位6人に入り、予選を通過した。世界選手権の過去15大会、34年の歴史で、男子100メートル準決勝に進んだのは朝原ら3人だけ。それが32分間で新たに3人の名前が加わった。代表3人全員の予選突破は世界選手権だけでなく五輪を含めても初だった。【上田悠太】

 ◆サニブラウン・ハキーム 1999年(平11)3月6日、福岡県生まれ。ガーナ人の父と日本人の母を持ち、小3で陸上を始める。今春に東京・城西高を卒業、オランダを拠点に練習。秋から米フロリダ大に入学する。100メートルの年次ベストは12年から11秒65、10秒88、10秒45、10秒28、10秒22、10秒05。188センチ、78キロ。

 ◆記録メモ 男子100メートルは大会史上初めて日本人3選手全員が24人で争う準決勝に進んだ。3選手とも1次予選を通過して2次予選に進んだ例は09年ベルリン大会などである。ただし当時の準決勝は現在より狭き門の「ベスト16」だったため、単純に比較はできない。