大迫傑、マラソン界に「陸王」現る!米拠点の異端児

日本人トップの2時間7分19秒でゴールする大迫(撮影・今浪浩三)

 3000メートル、5000メートルの日本記録保持者・大迫傑(26=ナイキ・オレゴンプロジェクト)が日本歴代5位となる2時間7分19秒をマークした。2度目のマラソン挑戦ながら、ハイペースなロンドン五輪金メダリストら海外勢と互角に戦い、日本勢最高の3位。人気ドラマ「陸王」で長距離に注目が集まる中、低迷する日本マラソン界の救世主誕生を予感させた。これで20年東京五輪代表2枠を決めるグランドチャンピオンシップ(GC、19年秋開催)の出場権を獲得した。

 そのスピードはマラソンでも通用した。川内、神野ら日本人が中盤から次々と脱落する中、大迫は先頭集団で終盤まで1キロ3分前後の海外勢らのペースに食らいついた。35キロの通過時点では2時間6分台も視野に捉える。平和台陸上競技場に入ると、万雷の拍手を浴びた。最後はややペースが落ちたが、2時間7分19秒は日本歴代5位。五輪6大会連続でメダルを逃し、低迷が続く男子マラソン界に光を差し込んだ。

 国内初マラソンで衝撃の走りを披露した大迫は「ラスト400メートルまでタイムは考えてなかった。前の選手との差を少しでも詰めようと思った」。淡々と話す姿が、この記録がまぐれではないことを証明していた。初マラソンだった4月のボストンも3位で、日本人では瀬古利彦以来30年ぶりの表彰台。「やっていることは間違えていない。力を付ける必要はあるが、1歩1歩練習を繰り返していけたらいい」とうなずいた。

 昔から強者と伍す選択をする。東京・金井中時代、強豪の長野・佐久長聖高から誘いを受けた時。母直恵さん(54)からは「東京にいれば1番になれるじゃない。失敗したら周りの風当たりも強いよ」と心配されたが「外に出て行かないと戦えないから」と入学。有言実行。佐久長聖を全国高校駅伝初優勝に導いた。

 そして15年春。早大を経て、入社した日清食品グループというエリート街道を捨てた。米国に渡り、プロとなった。12年3月に結婚した妻あゆみさん(28)も「勝手に決まっていた感じでした」と現地で支える。五輪で5000メートル、1万メートルを連覇するファラー(英国)ら超一流選手が集う世界最高峰の集団「オレゴンプロジェクト」にアジア人で唯一参加。厳しい環境に身を置き、アフリカ勢が主体の爪先から地面につく走法を磨いた。一般的な国内の実業団所属とは一線を画す、信じた独自の路線を歩み、結果を残した。

 64年東京五輪男子マラソン銅メダルの円谷幸吉は国立競技場の空に、唯一の日の丸を揚げた。メイン会場に日の丸を掲げられるのは陸上のメダリストだけ。20年東京五輪の新国立競技場、半世紀前の歓喜を再現する可能性が大迫にはある。【上田悠太】

<大迫傑(おおさこ・すぐる)プロフィル>

 ◇生まれ 1991年(平3)5月23日、東京・町田市生まれ

 ◇サイズ 170センチ、52キロ

 ◇自己記録 3000メートルは7分40秒09、5000メートルは13分08秒40。ともに日本記録

 ◇経歴 東京・金井中-長野・佐久長聖高-早大-日清食品グループ-ナイキ・オレゴンプロジェクト

 ◇箱根駅伝 早大1年で1区区間賞で大学3冠に貢献。2年は1区区間賞、3年時は3区区間2位、4年は1区区間5位

 ◇主な日本代表 11年ユニバーシアード代表1万メートル金メダル。15年世界選手権5000メートル22位。16年リオ五輪5000メートル予選2組16位、1万メートル17位

 ◇野球少年 小学校時代は東京・藤の台少年野球部でプレー。ポジションは主にセカンドとセンター

 ◇好きな食べ物 豚のしょうが焼き

 ◆陸王 TBS系日曜劇場(日曜午後9時)で放送中の連続ドラマ。経営危機に陥った老舗の足袋業者がランニングシューズの開発に挑戦する企業再生ストーリー。池井戸潤氏原作。役所広司主演。竹内涼真演じるランナー茂木裕人が足袋型シューズ「陸王」で復活を目指す。