公務員ランナー川内がプロ転向を決めた3つの理由

帰国した川内はボストンマラソンの優勝メダルを手に満面の笑みを見せる(撮影・狩俣裕三)

 「最強の公務員ランナー」が転身する。日本勢では31年ぶりにボストンマラソンを制した川内優輝(31=埼玉県庁)が19日、来年4月からプロとなる意向を表明した。米国から到着した成田空港で関係者も驚く電撃発言。県庁を退職して「マラソンに人生をささげる」環境をつくり、13年の自己記録2時間8分14秒を更新し、世界での活躍を目指す。出場を否定していた20年東京オリンピックの挑戦にも含みを持たせた。

 出国時は記者4人だけだった空港に、テレビも含め報道陣約20人以上が集まった。賞金15万ドル(約1650万円)の使い道を問われ、川内は唐突に述べた。

 「来年4月から公務員を辞め、プロランナーに転向しようと思っています。その資金にしようと思います。ボストンの賞金があれば、スポンサーに関係なく3、4年は活動できる」

 31歳で公務員の立場を捨て、スポンサー契約と賞金で食べていくプロへの転向。職場に正式に伝えておらず、同便だった代理人ラーナー・ブレッド氏さえも「ここで発表するとは」と目を丸くした。昨夏の世界選手権で9位と入賞に1歩及ばず、気持ちは傾きはじめていた。ただ、活動資金を確保できた以外にも、転向の理由は大きく3つある。

 ▼記録の伸び悩み 自己記録は13年ソウル国際の2時間8分14秒から「5年以上も更新できていない」。日本歴代1位の設楽悠や同4位の井上と比較しながら「スピードが足りない。純粋なタイム勝負だと世界の強豪に勝てない」と言った。

 ▼弟鮮輝(よしき)の存在 埼玉でともに暮らす弟は16年に会社を辞め、プロへ。練習や合宿、治療と競技に専念し、昨年12月の福岡国際で自己記録を4分以上縮めた姿に刺激を受けた。

 ▼仕事の節目 埼玉県職員の川内は久喜高に勤務して5年目。次の人事で異動する可能性が高く、練習時間を安定確保できなくなる心配がある。副編集長を務める創立100周年記念誌も11月に完成予定と、区切りもつく。「あの時プロになっておけばよかったと死ぬ時に後悔するのは嫌。サインに現状打破と書きながら自己矛盾を感じていた」。

 プロでは参加レース選びや合宿で自由度は高まる。出場しない意向だった東京五輪についても「プロになって本気でマラソンに人生をささげた時、できると考えれば自信を持って挑戦したい」と含みを持たせた。【上田悠太】

 ◆川内の今後レース フルマラソンはストックホルム(6月、スウェーデン)ゴールドコースト(7月、オーストラリア)ニューカレドニア国際(8月、フランス)ベネチア(10月、イタリア)と海外遠征を重ねる予定。国内では22日にハーフマラソンの「ぎふ清流」に出場する。