大迫傑「ネガティブ・スプリット」で世界基準の走り

<陸上:シカゴマラソン>◇7日◇米イリノイ州シカゴ市グラントパーク発着42・195キロ

マラソン3度目の大迫傑(27=ナイキ)が、驚異の走りをみせた。急激なペース変化に屈することなく、3位でゴール。2時間5分50秒で従来の日本記録(2時間6分11秒)を大幅に更新し、日本実業団陸上連合からの報奨金1億円を手にした。後半の5キロを14分台半ばで走るなど理想的な「ネガティブ・スプリット」を披露。日本人ランナーの常識を覆す走りで、20年東京オリンピック(五輪)のメダルも見えてきた。

25キロ過ぎから急激に上がったペース。30キロまでの5キロをトップ集団の中で14分27秒で走ると、日本陸連の坂口泰・男子マラソン強化コーチ(57)は「これは日本新が出る」と言った。1分以上も上がったラップタイムを余裕でクリア。安定した走りに「こんな日本選手は見たことないよ」と驚きの声をあげた。

大迫 コンディションが(雨と強風で)過酷だったけれど、ペースの上げ下げについていけた。前半遅かったが、ラストで(日本記録も)いけると思った。

ケニア勢のペースアップに、25キロまでトップ集団にいた13人は次々と脱落。健闘していた藤本と鈴木も置いて行かれた。それが近年の日本勢だったが、大迫は違った。世界のトップが集う「オレゴン・プロジェクト」で鍛えたスピードで、35キロで5人に絞られたトップ集団で淡々と走った。

大迫 きつくはなかったし、余裕はあった。それだけの練習はしてきた。ネガティブ・スプリットで走れたことがよかった。

世界に勝つには勝負どころに足を残す「ネガティブ・スプリット(後半型)」が理想。前半1時間3分4秒の大迫は後半を1時間2分台でまとめた。坂口氏は「後半スピードが落ちるのがマラソン。上げられるのが世界基準」と絶賛した。

大迫 最後の1マイル(1・6キロ)は向かい風できつかった。4分台は無理な記録ではないけれど、大事なのは勝負。東京五輪のメダルはまだまだ。前にいた2人に勝つ準備をしたい。

これまでの日本記録はイーブンペースで正確にラップを刻んで生まれた。しかし、大迫は勝負に徹した他の選手が激しくレースを動かす中で、2時間6分を切った。「5分台はメダル圏内」と坂口氏は話した。

大迫 もし東京五輪に出られたら、タイムは意味がない。大事なのは勝負。これまでも、これからも、勝負できる力をつけたい。

長く低迷した日本の男子マラソン界に、世界と戦えるヒーローが誕生した。【荻島弘一】