9秒台は当たり前 サニブラウン日本人初2度目大台

男子100メートル決勝で3位のサニブラウン(右)は9秒97で日本記録を更新(撮影・菅敏)

<陸上:全米大学選手権>◇7日(日本時間8日)◇米テキサス州オースティン◇男子100メートル決勝

陸上男子100メートルのサニブラウン・ハキーム(20=フロリダ大)が決勝で9秒97(追い風0・8メートル)の日本新記録を樹立した。3位だったが、桐生祥秀(23=日本生命)の従来の記録を0秒01更新。5月11日の9秒99(追い風1・8メートル)に続き公認記録で2度目の9秒台は日本人初。わずか45分後には200メートルで日本歴代2位となる20秒08(追い風0・8メートル)と驚異的な走り。次戦の日本選手権(博多の森陸上競技場)の決勝(28日)は9秒台決着となる可能性も十分で、異次元の争いになりそうだ。

当たり前のようにサニブラウンは超えていった。9秒97。日本新記録。2日前の準決勝は9秒96だったが、追い風2・4メートルで参考記録。今度は公認の範囲内で日本人初の2度目の9秒台。ただ優勝したオドゥドゥルに0秒11遅れ、淡々と次の200メートルに備えた。喜びもしない。その表情が底知れない力の証明だった。

「正直、あまり実感はない。まだ速いタイムは出る。もうちょっと速く走れたかなと思っていた。ナイジェリア人に負け、アメリカ人にも負けた。とりあえずは敗北かな」

100メートルの45分後に行われた200メートルは「ガス欠。最後30メートルはスピードが落ちた」と悔やみつつ自己ベストを0秒05更新し、日本歴代2位。100メートルの50分前には400メートルリレーに第2走者で出場し、37秒97の今季世界最高記録のVに貢献した。1時間35分の間に3種目。過密日程だからこそ、快記録のすごみは増す。

目標は「地上最速」。なぜ速いのか。身長188センチの体格を生かした走りが特長。この日は約43・5歩で駆け抜けた。17年日本選手権のストライドは44・7歩だったから、さらに1歩分進化を遂げている。17年世界選手権を9秒92で制したガトリン(米国)は44・1歩で、世界トップをも上回る。持ち味は高速ピッチとタイプは違うが、9秒98を出した時の桐生は47・3歩だ。

課題の出足も改善。名伯楽ホロウェイ・ヘッドコーチらのもと、最初の数歩で無理に下を向いていたのを、自然に上体を起こす意識に変え、加速は滑らかに。後半型ながら、3月には60メートル室内日本タイ記録の6秒54。序盤からスピードが出るようになった。

20歳の大器の可能性は計り知れない。高校卒業後に海を渡る選択が正しかったことも、結果で証明し続ける。日本選手権は「普通に優勝し、世界選手権の切符を取り帰って来られれば」。もう9秒台は日常的に出せそうな空気だ。16年リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)の決勝進出ラインは10秒01。20年東京五輪で、日本人88年ぶりとなる決勝進出は夢ではなく、現実味を帯びている。

◆サニブラウン・ハキーム  1999年(平11)3月6日、福岡県生まれ。ガーナ人の父と日本人の母を持ち、小3で陸上を始める。15年7月世界ユース選手権100メートル、200メートル2冠。同年世界選手権北京大会は200メートルに同種目世界最年少16歳で出場し準決勝進出。東京・城西高卒業後、オランダを拠点に練習し17年秋フロリダ大進学、拠点を米国に。188センチ、83キロ。

◆全米大学陸上選手権 陸上の米国学生王者を決める大会。1921年からと歴史は古く、男子100メートルで35、36年に連覇したジェシー・オーエンスは36年ベルリン五輪4冠の名選手で、81年の覇者は五輪で9個の金メダルを獲得したカール・ルイス。統括する全米大学体育協会(NCAA)には1100超の大学が加盟。学業優先のため有力選手でも成績不振だと参加できない。今大会は約300の1部校が学校対抗得点で争い、サニブラウンのフロリダ大は2位だった。