日本新の寺田明日香、回り道でなかったラグビー転向

女子100メートル障害日本新記録となる12秒97のタイマーの前で笑顔の寺田(撮影・上田悠太)

<陸上:富士北麓ワールドトライアル>◇1日◇山梨・富士北麓公園◇女子100メートル障害

ママさんハードラーが日本新! 女子7人制ラグビーから今季約6年ぶりに陸上の女子100メートル障害に復帰した寺田明日香(29=パソナグループ)が1本目のレースで12秒97(追い風1・2メートル)を出した。19年ぶりの記録更新で、初の12秒台突入。

従来の記録は金沢イボンヌと自身が出した13秒00だった。1児の母は世界選手権(ドーハ)の参加標準記録(12秒98)もクリアし、2度目の代表切符を確実にした。

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「12秒97」の表示を確認した寺田は両腕を突き上げた。タイムを指さし、満面の笑み。勝者の証しである1本のピンクの花を受け取ると、スタンドの夫峻一さん(36)、長女果緒ちゃん(5)へ放り投げた。家族の喜ぶ姿に、また笑う。世界選手権の出場も確実にし「目指していた12秒98を0秒01でも超えられて、うれしい」。先月17日に13秒00の日本タイ記録を出した翌日、フェイスブックに1通のメッセージが届いた。記録に並んだ金沢さんから。「古い記録は早く抜いて」。見事に0秒03更新した。

08年から日本選手権3連覇も23歳で、1度は陸上を諦めた。ケガや貧血が重なり2年間思うように走れず電撃引退。14年3月に結婚し、同年8月には母に。16年から7人制ラグビーに転向。ただ、けがもあって代表入りが厳しくなり、昨年12月に陸上の道に戻った。「ラグビーはどうしたら止まれるか考える。止まる感覚を表現しなければ前に進む動きとなる」。体の使い方を熟考した過去は今に生きる。ラグビーと違い「ハードルは私に向かってこない」。障害への恐怖心も消えた。また以前より地面を捉える力が強くなったのはラグビー経験の副産物だ。

年齢と向き合い、練習は週4日。練習や仕事へ行く前は朝ご飯も作る。家族の支えに感謝した上で「出産前の体のギャップも認めないといけないが、そこを超えられたらママでも進化できる」。その口調は母として、アスリートとしての誇りに満ちた。【上田悠太】

◆寺田明日香(てらだ・あすか)1990年(平2)1月14日、札幌市生まれ。札幌平和通小4年から競技を始める。北海道・恵庭北高では高校総体を3連覇。09年世界選手権に出場するも予選落ち。13年に1度現役を引退。16年12月の日本ラグビー協会のトライアウトに合格し、17年1月から日本代表練習生として活動。18年12月にラグビー引退と陸上への復帰を表明し、今年の日本選手権は3位。