川内優輝がプロとして世界に挑む異例の深夜マラソン

2019年3月びわ湖毎日マラソン、8位でゴールする川内

百戦錬磨のプロランナー川内優輝(32=あいおいニッセイ同和損保)が、日本代表の誇りをかけて「ミッドナイトマラソン」に臨む。陸上世界選手権(27日開幕、ドーハ)の男子マラソン(10月5日)は、暑さを避けるために異例の午後11時59分スタートとなった。

大きな注目が集まった東京五輪につながるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)ではなく、世界選手権を選択した川内は6日の所属先の壮行会で「燃えてくるシチュエーション。注目されていないからこそ、いい結果を出して、ぎゃふんと言わせてやろうと思っている」と意気込んでいる。

今年に入って、大きく環境を変えた。3月末に公務員ランナーを「卒業」して、プロランナーに転向。4月から「あいおいニッセイ同和損保」所属となった。公務員とランナーの「二足のわらじ」で世界各地を走ってきたが、競技に専念することを選んだ。

悔しさがきっかけだった。17年世界選手権ロンドン大会。入賞の8位までわずか3秒差の9位に終わった。中盤の遅れを取り戻すように必死の形相で終盤に猛追したが、届かなかった。「ロンドンの悔しさが、プロ転向の理由。3秒、足りない。日本代表をやめるよりも、仕事をやめたい。そっちになりました。最高の調整ができない。(日本代表と公務員の)板挟みで無理だなと。精神的に厳しかった。プロならばよくも悪くも自分の責任」と説明している。そして世界選手権の雪辱は世界選手権で果たすしかない。

6月にはドーハに渡って、現地での試走を行った。グーグルマップを駆使して、深夜に本番コースを20キロ以上も走った。吸水量も通常の1・5倍から2倍ほどに増やしてみるなど、暑さへの対策にも着手。その経験から「間違いなく昼夜逆転生活になる」とイメージを膨らませている。

今春には体内時計を現地に合わせず、そのまま本番に臨むという、かつてない仰天プランも披露している。日本との時差6時間のドーハについて「時差があるからいい。いつもは時差対策で飛行機で寝たりしますが、それをせずに、現地でも昼間にカーテンを閉めて、本来、寝るべき時間を夜みたいに過ごせばいい。時差がないところだと、深夜(のマラソン)に合わせるのが難しいが、時差があるからそんなに問題ないかなと思う」とさらり。異例の調整がうまくいけば、川内の体内時計では、日本の早朝マラソンになる寸法だ。

5月には実業団デンソーで今春まで活躍した水口侑子さんと結婚。公私ともに充実の時を迎えて、狙うは初めての入賞。2年前の自分を超えていく快走で結果を示す。

◆川内優輝(かわうち・ゆうき)1987年(昭62)3月5日、東京・世田谷区生まれ。学習院大時代に関東学連選抜として、箱根駅伝に2度出場。大学卒業後は埼玉県で公務員をしながら、市民ランナーとして国内外のマラソン大会に出場。試合前日にカレーを食べることをルーティンとしている。主な実績は、14年仁川アジア大会銅メダル、18年ボストンマラソン優勝。世界選手権では、11年大邱大会17位、13年モスクワ大会18位、17年ロンドン大会9位。自己ベストは13年ソウル国際での2時間8分14秒。175センチ、62キロ。