弘前実・村上来花 世界で戦えるスローワーになる!

昨年を象徴する漢字1字として「更」と色紙に記した弘前実・村上(撮影・相沢孔志)

昨年、日本高校陸上競技界に大きな衝撃を与えたヒロインがいる。女子ハンマー投げの弘前実(青森)村上来花(2年)は高校から本格的に同種目に取り組み、昨年10月の東北高校新人大会(岩手・北上市)で、高校女子では初めて60メートル超え(61メートル02)のロングスローを記録した。自身が持つ日本高校記録やU-18記録だけでなく、弱冠16歳にしてU-20日本記録(60メートル49)も更新。2年弱のキャリアでシニアの一線級とも肩を並べる。弘前市出身の逸材が、高校最終学年を迎える今年に懸ける思いを語った。【取材・構成=相沢孔志】

弘前実・村上は、才能を開花させた昨年を表す漢字1字として「更(こう)」と書き上げた。

村上 記録も更新したし、メンタル的にも身体的にも良い意味で成長できた年だったと思います。

記録更新の連続だった。昨年2月に九州共立大(福岡)で行われた記録会で、高校1年歴代1位の52メートル91をマークして1年が始まった。コロナ禍で目標の全国高校総体は中止となったが、休校や練習自粛という状況でも前を見続け、同8月の記録会では日本高校記録(56メートル84)を超える58メートル81。同10月2日には日本選手権(新潟)初出場で5位入賞を果たすと、2日後の東北高校新人では高校女子初の60メートル台スローを披露し、新たな歴史を刻んだ。

-日本選手権出場時の心境は

村上 会場入りした時に、周りには日本や世界のトップ選手がたくさんいた。その状況を見ただけで、これは頑張るのではなくて、楽しむことを一番に考えて臨もうと思いました。

-投てきの感覚は

村上 目の前でトップ選手の投げを見ても、変に考えようとせずに、気楽に投げることができました。

-大舞台後の東北新人大会で大記録

村上 (日本選手権で)大人の方々がどのような流れで試合に臨まれてきたのかを見てきたので、それを実践しようと思った。疲れはあったと思いますが、逆に変な力が入らなくて良かった。日本選手権の雰囲気も体に残っていたので、楽しみながらも緊張しながら試合に臨めたことが、良い結果につながったと思います。

-60メートルを超えた瞬間は

村上 「行った!」と思いました。周りからも拍手や「行った!」という声も聞こえた。高校生の中で初めて60メートルスローワーになれた自信とうれしさもあった。自分だけが喜ぶ投げだけじゃなくて、周りも喜べるような投げや試合ができたこともうれしかったです。

それでも順調に過ごせたと思えるシーズンは、苦い思い出で終えた。10月下旬に広島で開催された全国総体代替大会は、感染防止対策で試技回数は6回から4回に変更。優勝候補筆頭だった村上は前半の2投で記録を伸ばせず、まさかの15位で決勝進出(上位8人)を逃し、試合後には悔し涙を浮かべた。

-不調の原因は

村上 1年を通して高校のトップ選手が初めて集まり、しかも高校日本新を出した状態で挑む大会。周りの意見や目線がプレッシャーから圧に変わって、それを受けてしまった。変に筋肉を硬直させて良い投げができなかったと思います。

-敗戦はどう生かす

村上 悔しさは無駄にしない。雪国の青森では投てき練習ができなくても、土台となる下半身強化を徹底して、さらなる成長を誓う。上半期に大会が少なかった昨年に比べて、今年は感染対策の徹底により大会開催が軌道に戻れば、記録更新のチャンスは増える。今年の目標は「世界で通用する選手になる」だ。

-色紙に込めた思いは

村上 昨年10月に61メートル02を出した時、世界ジュニア(U-20世界選手権)出場も見えた。もし今年、参加できるのであれば、世界でも入賞できる選手になりたい。将来はオリンピックの参加標準記録を出して、世界で戦える1人の女性スローワーになりたいです。

-目標の記録は

村上 特に決めていない。世界は自分よりもすごい人が周りにいる中での試合になるので、まずは日本選手権と同様に試合を楽しんで臨みたい。

-日本での目標は

村上 また日本選手権に出場したい。去年は5位でメダルに届かなかったので、ライオンのメダルを取って弘前に帰りたいです。

-2年ぶり全国総体開催へ準備が進められている

村上 去年の負け(広島の代替大会)を今年のインターハイで爆発できたらいいなと思います。

-あらためて今年はどういった年にしたい

村上 去年は最後に泣いて終わってしまったので、今年は全部笑って終われる1年にしたいです。

村上が出場を視野に入れる世界ジュニアは、昨年7月にケニアで開催予定だったが、コロナ禍で延期になった。昨年の日本代表選考基準は開催年時点で19歳以下、記録は58メートル以上と、数字上ではクリア。今年も開催は流動的な状況だが、世界基準での活躍を目標に掲げる16歳は、大舞台で花を咲かせる日が来ることを信じて、歩み続ける。

◆村上来花(むらかみ・らいか)2004年(平16)1月13日生まれ、青森・弘前市出身。弘前一中1年時に陸上競技(短距離)を始め、弘前実で本格的にハンマー投げを始める。1年時は全国高校総体で11位、東北高校新人戦優勝など。自己ベストは61メートル02。166センチ。家族は両親、姉、兄、祖母。座右の銘は「負けないことより逃げないこと」。