【陸上】田澤廉「そろそろ出さないとな…」“収穫”糧に1万m日本記録更新へ日本選手権に挑む

田澤廉(7月9日撮影)

陸上男子の田澤廉(23)が1万メートルの日本記録更新を目指し、今日10日の日本選手権(東京・国立競技場)へ臨む。

駒澤大(駒大)のエースとして同校初の大学3大駅伝「3冠」に貢献し、4月からはトヨタ自動車に入社。駒大・大八木弘明総監督の指導のもと、8月には2大会連続で世界選手権(ハンガリー・ブダペスト)へ出場した。

パリ五輪代表選考を兼ねた日本選手権では、20年12月に相澤晃が打ち立てた27分18秒75の日本記録更新を1つの目標に掲げる。実業団1年目の今季の収穫を糧とし、レースに挑んでいく。

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■「成長していない」と総括した理由とは

田澤は淡々と現状を説いた。

「成長はしていないでしょうね。ベストも更新していないですし」

標高1500メートルに位置する米国・アルバカーキ合宿も終盤に入った11月下旬。実業団1年目の歩みを冷静に振り返っていた。

今季は27分28秒04をマークした米国での大会「The TEN」を皮切りに、6レースに出場した。7月のアジア選手権(タイ・バンコク)では厳しい気象条件下で優勝。2大会連続の出場となった世界選手権では15位となり、前回から5つ順位を上げてみせた。9月下旬には杭州アジア大会で4位に入った。

3つの主要国際大会に出場したが、当人は「思うようなレースが出来なかった」と省みる。

「今度の日本選手権で1万メートルは7本目になりますが、そんなに走ったことは過去にないんですよね」

昨年まではチームに合わせたスケジュールで動くことが主だったが、今季は世界大会を見据えた練習計画を立てた。「どの大会にも出たい」という思いゆえのプランニングだったが、疲労が体にたまっていった。

「何でしょうね。体が重く感じるというのもありますが、例えば自分が今までやってきた練習と比べても、余裕度が違うんです。練習をしようとしても疲れが出ている状態がずっと続いていました」

1万メートルの出場レースでは、今季初戦の3月のタイムを上回ることができていない。21年12月に打ち立てた日本歴代2位の自己記録(27分23秒44)にも届かなかった。

これまで制御していた力を解放していく-。

大学を卒業した今年はそう見立てていたが、解放するための準備ができていなかった。

「解放したかったんですけど、自分が思い描いていた練習ができていませんでした。今年は代表になるチャンスが3回あって、1つ1つしっかり走らないといけないので、それに向けた練習をしていて。本当であれば、26分台の練習をしたかったんですけど。必然的に開放できていないです」

胸に引っ掛かった思いが「成長はしていない」という言葉に表れた。

 

■「収穫」と表現した2度目の世界選手権

「成長」とは言わなかったが「収穫」と表現した大会もあった。それが8月の世界選手権だった。

アジアの「エリアチャンピオン」としての出場。世界ランキングは出場選手でも下位だった中、28分25秒85で15位に入った。

特に終盤の走りには手応えを感じた。

「ラストスパートが前よりもキレが増したように思います」

今季はスパート強化にも努めてきた。大八木総監督の提案のもと、ジョー・クレッカー(米国)の練習も参考にしつつ、メイン練習後に100メートルや200メートルなどの短距離走のメニューを設けたり、ジョグを追加したりしてきた。

「それは自分でも取り入れたほうがいいと思ってやっていました」

ブダペスト大会ではその成果が出た。16位相当でラストを迎えたが、残り100メートルを切ったフィニッシュ直前でショーン・マクゴーティ(米国)をかわし、1つ順位を上げた。

1年前のオレゴン大会では最終400メートルのタイムが1分5秒35だったが、今年は1分2秒77で駆け抜けた。

「そこは収穫があったかなと思います。世界選手権は大きなポイントかなと思います」

2分58秒の短縮は次への糧となった。

■日本新記録は「そろそろ出さないと」

 

迎える日本選手権。

27分00秒00を突破した上で優勝すれば、その時点で来夏のパリ五輪代表に内定する。

11月10日からはアルバカーキで約3週間の強化合宿を敢行した。ポイント練習を増やし、スピード強化に努めてきた。

「26分台が出せる練習はできていない」と正直に打ち明けるが、27分台前半に対応できるような練習は積んできた。

「日本記録(27分18秒75)くらいまではいけると思います。日本記録をそろそろ出さないとなと思っているので。もちろん順位も見つつ、日本記録もいきたいと思っています」

強く意気込むわけではなく、淡々とした口調で見据えた。

2023年を締めくくるレース。ブダペストでの収穫を示し、新たな歴史を刻む。【藤塚大輔】

 

◆田澤廉(たざわ・れん)2000年(平12)11月11日生まれ、青森・八戸市出身。是川中、青森山田高を経て駒大に進学。1万メートルで21年日本選手権2位、同年12月には日本歴代2位となる27分23秒44をマーク。世界選手権は22年オレゴン大会20位。23年ブダペスト大会15位。駒大ではエースとして活躍し、4年時には同校史上初の大学3大駅伝「3冠」を達成。23年4月からトヨタ自動車入社。