【陸上】桐生祥秀、復活の背景にあった“我慢”「しっかり意見を聞く」10代から変わらない人柄

世界選手権標準記録を突破し、記念のボードを手に笑顔を見せる桐生(撮影・足立雅史)

<陸上:富士北麓ワールドトライアル>◇3日◇山梨県富士北麓公園陸上競技場◇男子100メートル予選2組

桐生祥秀(29=日本生命)が今季日本人最速の9秒99(追い風1・5メートル)をマークした。17年に日本人初の9秒台となる9秒98(日本学生対校選手権)を記録して以来、8年ぶり2度目の大台。9月の世界選手権東京大会の参加標準記録(10秒00)を突破し、100メートルの代表入りが確実となった。

今年12月に30歳となる桐生が、なぜ復活できたのか-。13年から専属トレーナーを務める後藤勤さんは「桐生のすごいところは、しっかりと意見を聞くところ」と証言する。後藤さんらが「今は体が万全ではないから、この練習はできない」とメニューの制限を提言すると「分かりました」と素直に従うのだという。

「東京五輪以降は本当に我慢して、我慢して、我慢してやってきた。もっとやりたくても我慢してきた。『目先の試合にとらわれず、来年や冬に向けてやろう』と伝えると、それを聞いてくれる選手。そういう選手は少ないです」

東洋大4年時に10秒00の壁を破り、その後も10秒0台を何度もマークしたが、21年東京オリンピック(五輪)では個人種目代表を逃した。22年6月に休養を発表し、大学2年時から国指定の難病の潰瘍性大腸炎を患っていたと告白。23年から復帰したが、同年の世界選手権出場はかなわなかった。

紆余(うよ)曲折の競技人生。その中でも、責任感の強さや感謝を言葉にする姿は、担当し始めたころから変わらなかった。

「桐生はケガや結果に対して、自分の責任という思いを強く持っている。絶対に人のせいにしない。そこがすごいんですよね。それから感謝ができる。『ありがとう』とすごく言う。ちょっとしたことでも『ありがとうございます』と。昔からずっとそういう子。それもすごいです」

衝撃の9秒98から8年。この日、2度目の9秒台をたたき出した。後藤さんは「めちゃくちゃうれしいです」と喜びつつ「うれしいですが、出せる力があると思ってやってきた」とうなずいた。

桐生自身も9秒99には満足していない。「ここから9秒99を超えることによって、価値が高まると思う。今日の9秒台は『標準突破』という意識しかない」。歩みへの誇りを胸に、さらなる高みを目指している。【藤塚大輔】