リオデジャネイロ・パラリンピックで3連覇が期待された車いすテニスの国枝慎吾が、準々決勝で敗退した。4月の右ひじ手術によるブランクの影響で試合勘が鈍っていたという。もっともグランドスラム40回優勝の巨人に対し、対戦相手のジェラール(ベルギー)も攻略法を研究し尽くしていたに違いない。

男子シングルス準々決勝 敗れた国枝は無念そうな表情を見せる(撮影・山崎安昭)
男子シングルス準々決勝 敗れた国枝は無念そうな表情を見せる(撮影・山崎安昭)

 国枝のライバルで世界ランク1位のステファン・ウデ(フランス)は、テニスの技術向上とともに、より機能的な車いすの研究開発に取り組んだ。自転車のタイヤメーカーや機械力学の学者とチームをつくり、機動性を高めたカーボン製の画期的なマシンを完成させた。値段は実に1500万円。

 他の選手から「補助具で戦うのか」の批判もある。今年5月の世界国別対抗戦(東京)で来日したウデは、周囲の声に対し「車いすの動き方を解明できたし、自分の動きも進歩した。この開発は車いすテニス界全体をレベルアップさせるものだ」と悪びれずに語った。しかし、公平の条件で競うのがスポーツ。違和感は残った。

 陸上競技で似たようなことがあった。ある選手に成長著しい若手選手について聞くと、意外な答えが返ってきた。「あの選手の義足は最新のもので、自分の義足より反発力があるから」。補助具の性能が成績も左右するという。パラリンピックの注目度が上がれば、貧富の差が競技力格差になる可能性は否定できない。

 確かに補助具の発達は競技力を高め、記録を向上させてきた。一方で、その性能や機能性が進歩するほど、肝心の選手自身の成長や努力が見えにくくなる。14日の共同通信によると、国際パラリンピック委員会のクレーブン会長が、リオ大会後のルール改正で主に両足義足の選手の義足の長さについて新規則導入を検討すると明かしたという。

 周囲の包囲網にも国枝は、「テニスの技術で競いたい」と自分の哲学を変えずに戦ってきた。きっとこれからも、これまでと同じように今大会の敗戦を肥やしにして、新たな技術の習得や戦い方を模索していくに違いない。ちなみに国枝の車いすの素材はアルミ製。値段は約40万円だそうだ。【五輪・パラリンピック準備委員 首藤正徳】