本田圭佑の「つぶやき」はいつも突然だ。それも想像のはるかかなた、斜め上からやってくる。


「ビッグクラブ、そうじゃない」

15年1月、パルマ戦でドリブルするACミラン本田
15年1月、パルマ戦でドリブルするACミラン本田

今シーズンはまだ選手としての所属先がない。33歳、欧州を離れて2年以上たつ日本人MFの、移籍市場における価値が下がっていることは明らかだ。

そんな中、9月末に突然、ツイッターでマンチェスター・ユナイテッドや古巣のACミランに呼び掛けた。事実上の逆オファー、逆プロポーズで驚かせた。

ツイートは英語。文字数には制限もある。真意を尋ねると「またビッグクラブに行きたがっていると捉えられているかもしれないけど、今はもう、そうじゃない。過去に散々、ビッグクラブ、ビッグクラブと言ってきたから、そう思われているかもしれないけど」とヒントを口にした。

名門、赤いユニホームのこの2チームは、大きな期待を背負いながら、開幕からけが人続出もあり誤算続き。大きくつまずき、10月の中断期を前にマンUはプレミアで12位、ミランはセリエA13位と低迷し、早々と監督も替わった。

25歳だった12年6月には、香川真司のマンU移籍に「自分もビッグクラブにふさわしい選手だと思う」と言った。その1年半後、CSKAモスクワからミラン移籍を果たし、10番を背負った。確かに「ビッグクラブ、ビッグクラブ」と言っていた。


「東京オリンピックのため」

2008年8月、北京五輪の米国戦でドリブルする本田
2008年8月、北京五輪の米国戦でドリブルする本田

今は状況が違う。見据えるのは自国開催の東京オリンピック(五輪)。本田は想定外で困っているチームに、経験ある自らの存在価値があると考えているようだ。

この役回りは、前回のワールドカップ(W杯)後に、現役続行の理由とした東京五輪に出て金メダルという、壮大な目標から逆算している。

選手として、とにかく今は東京五輪。欧州で苦しむチームの救世主となるイメージだろう。夏以降、複数のオファーはあったが、決めていない。「もちろん、東京オリンピックのため。行きたいと思っているチームに行きたいから」。秋を迎えても慌てていない。

競争力の高いチームで、プレーで示すことしか五輪代表、それも最大でたった3つの年齢制限外のオーバーエージ枠をつかみ取る方法はない。自国開催で、想像もしないプレッシャーにさらされるであろう若い五輪代表の、大事なチーム総仕上げから、大会中も大きく貢献できるはずだ。


「出ることが目標になったら、意味ない」

2018年W杯1次リーグのコロンビア戦、ドリブルで攻め込む本田
2018年W杯1次リーグのコロンビア戦、ドリブルで攻め込む本田

この夏も日本、米国、オランダ、カンボジア、日本と世界中を渡り歩いた。自ら「挑戦者」と名乗り、投資家、起業家、経営者としても忙しいが、選手としての準備を欠かしたことはない。どこへ行くにも個人トレーナーに同行してもらい、毎日徹底した自主トレーニングを行う。時にはシェフにも来てもらい、栄養士からも細かな助言を受けている。

やると決めたらやる、半端な覚悟ではやらない。昨年のW杯ロシア大会を最後に、日本代表からは退いた。当時は、理由を明確にせず、若手にW杯優勝の思いを託すとしたが、その決断についても語った。

「ワールドカップは4年に1回。俺はどんどん年を取っていく。(代表を退くのは)苦渋の決断やったけど、死ぬほどの思い、努力をして36歳になった時の俺が、ワールドカップに出ることが目標になるんやったら、意味ない。潔さも大事。ワールドカップに対しては、ただ出るっていうのはいや。美学がない、そこに。だって、ワールドカップ優勝するってサッカーを始めたから。それは最後まで貫く。特にワールドカップへの思いが強かったからこそ、そこは」

強がっているようにみえて、冷静。加齢による衰えも、受け入れがたいものとして、捉えている。4年も後のW杯に、過去3回と同じ思いで挑戦するのは難しい。ただ、2年後、そこから1年経過し、現状1年を切った東京五輪なら。優勝、世界の頂点を狙ってもう1度挑めるとの判断に至ったようだ。だからこその大勝負だ。


金メダルへの大ばくち

2018年W杯決勝トーナメントのベルギー戦で逆転負けし、本田はピッチに横たわるチームメートを見つめる
2018年W杯決勝トーナメントのベルギー戦で逆転負けし、本田はピッチに横たわるチームメートを見つめる

メンバーを決めるのは五輪代表の森保一監督で、他の選手同様、選ばれるという保証が一切ないことも、承知している。W杯は23人だったが、五輪は年齢制限があり、今回は年齢制限外の、最大でもたった3枠の狭き門を争う厳しい戦いになる。さらに、今季は所属チームなしと大きく出遅れているハンディもある。立ちはだかる壁は高く、険しい。

大ばくちに近いが、1度決めたらやり抜く。選ばれるだけのW杯に意味を見いだせなかったように、選ばれるだけの五輪ではなく、選ばれて金メダルを取る、いや取らせることにフォーカスしているから、脇目は振らず、外野の声も気にしない。

帳尻を合わせるようにクラブを決めることも、しない。報酬、クラブの看板、ブランド力、移籍に際し、重視すべきポイントは幾つもあるが、今回こだわるのは、そこではない。

その一方で、所属先がなくても、変わらずサッカー人でもあり続けている。実質的監督として、22年カタール大会に向けたW杯アジア2次予選の真剣勝負の場に立っている。

選手から立場を替え、4度目のW杯予選。「ワールドカップでも本番と予選は違う。別もの。予選はワールドカップじゃない。4度目のワールドカップ予選? そんな視点は俺にはなかった」と笑い飛ばすが、今も国を背負って、ヒリヒリとした勝負の最前線にいる。

(続く)【八反誠】