19歳が、4回転サルコーの衝撃-。

22日の女子フリーでエリザベート・トゥルシンバエワ(19=カザフスタン)がシニアの国際大会で初の4回転サルコーに成功。来季以降について「割とやる人たちが出てくると思う」と予言した。トゥルシンバエワも4回転トーループ、3回転半ジャンプに挑戦していく構えだ。過去にジュニアで4回転ジャンパーはいたが、シニアの世界選手権で銀メダルにつながった意味は大きい。22年北京オリンピック(五輪)のメダル獲得に、4回転ジャンプが必要になる時代がやってくる。

2019年3月22日午後9時19分。最終滑走のトゥルシンバエワが高く跳び上がった。4回転サルコーに成功した。10年バンクーバー五輪から、トップ選手のジャンプ構成がほぼ変わらなかった女子シングルの未来を大きく変える瞬間だ。

もう待ったなしだ。男子に続いて、女子にも「4回転時代」が到来する。19歳はこの1本で10・81点を獲得。同国初の銀メダルを獲得した。「本当に信じられない。氷の上に立つと『できるんだ』という気持ちがわき上がった」。

サルコーは最も好きなジャンプで、3年前から遊びで4回転を跳んでいた。プログラムに組み込む気持ちはなかったが、今季から練習拠点をカナダからモスクワに変更。ザギトワ、14歳の4回転ジャンパー、トルソワらとともに練習している。

「ジュニア選手が4回転ジャンプを跳んでいるし、彼女たちは来季シニアに転向してくるでしょう。(4回転サルコーは)楽しみでやっていたけど、コーチに(プログラムに)入れたらいいと言われて」

試合では3度目の挑戦でついに成功した。

4回転サルコーは、02年安藤美姫がジュニアGPファイナルで世界で初めて成功した大技だった。現在、4回転ジャンプは来季からシニア転向が見込まれるトルソワらロシアのジュニア勢が跳んでいる。ただジュニア選手は成長とともに体形が変化して、跳べていたジャンプが跳べなくなるケースがある。「シニアになっても同じように4回転を跳び続けられるのか」という未知数の部分はあった。

しかしトゥルシンバエワはすでに19歳だ。さらに驚きの計画も持っている。「2年前の夏に4回転トーループを試して感触は良かった。今はやってないけど、もう1度練習を再開してみる。もちろん3回転半ジャンプも、とても大事なので頑張りたい」。世界選手権銀メダリストが、3回転半と2種類の4回転を跳ぶとなれば、他の選手も目線を上げざるをえない。

男子では、14年ソチ五輪王者の羽生が16年10月、世界初の4回転ループを成功させた。トップが技術水準を上げれば、追いかける選手は同等かそれ以上にチャレンジするしかない。男子の「4回転時代」は急激に進行していき、18年平昌五輪のフリーでチェン(米国)が「4回転ジャンプ6本挑戦、5本成功」という地点まで到達した。来季以降は「女子4回転時代」が否応なく進行していく可能性がある。少なくともこれからの若い選手にとって4回転は「女子が跳べるもの」という認識になるだろう。

22年北京五輪でメダルを目標に掲げた時、どれぐらいの選手が4回転ジャンプに挑戦するだろうか。長く得点源とされたルッツ-トーループの連続3回転は役割を変えているだろうか。

銀メダルを胸にかけたトゥルシンバエワは、この問いに対して「私としては何とも言えないです。何が起こるかわからないので。でもやろうとしている人たちはいるので」と困惑して口にした。ただ19歳が決めた1本のジャンプが、時計の針を進めることは間違いない。【益田一弘】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

女子フリーで演技を見せるエリザベート・トゥルシンバエワ(2019年3月22日撮影)
女子フリーで演技を見せるエリザベート・トゥルシンバエワ(2019年3月22日撮影)