大阪の地下鉄御堂筋線・長居駅から徒歩約10分のところに六島ボクシングジムがある。元世界王者の名城信男氏(38)を排出した名門だ。

そこに、ウエルター級でデビューを待つ岡本和貴(25)がいる。ボクサーには珍しい、眼鏡がトレードマークの選手だ。ジムのホームページにも、眼鏡をかけた姿でファイティングポーズを決めいる。控えめなように見えるが、昨年の全日本社会人選手権ミドル級3位で、ガードを堅めながら距離を詰め相手を仕留めるファイターだ。

3月のある日、ジムを訪ねると練習着に着替えた岡本が満面の笑みで迎えてくれた。

「会長から眼鏡というキャラでいけと言われまして。個人的にも面白いなと思って。会長からは『メガネ』と呼ばれたりもします」

ボクシングを始めたきっかけは中3のときに見た映画「ロッキー・ザ・ファイナル」。意思を曲げない主人公に魅了されたという。名門の大阪市立大理学部出身で、「院生ボクサー」として話題になった坂本真宏氏(29)と同じボクシング部出身でもある。

卒業後は競技から離れ、営業マンになった。約2年後、再び戦いに身を投じたのは「最後までボクシングをやりきってない」と不完全燃焼の自分に気がついたからだ。

二足のわらじ。楽な道ではない。普段は5時半に起床。走り込みをしてから、8時ごろには梅田のオフィスに出社。午後6時まで仕事を精力的にこなしてからジムに通う。1人暮らしのため練習後も買い物や洗濯などで、日付が変わってから布団に入ることも珍しくない。残業で練習ができない日もある。

「正直言うと、しんどいですね。でも、これをやりきったらカッコいいなと思っている自分がいます。最後までやりきって胸を張って終えたい。最後が青空を見て(倒れて)TKO負けになろうとも、やりきったら絶対満足できると思うので。自分の限界まで挑んでみたいと思ってます」

新型コロナウイルスの影響で4月のデビュー戦は延期となった。それでも、常に試合を意識している。

「まずは新人王です。世界チャンプとかは言わないです。狙える目標を言っていこうと思います。入場の時には眼鏡をかけようと思っています。最近、オシャレなのを買ったので、目立とうかな、眼鏡で。そして、眼鏡のスポンサーがつくようにがんばります」

日本では珍しい“眼鏡ボクサー”。だが、まじめそうな外見とは異なり、おちゃめな一面と、「ロッキー」のような気持ちの熱さをのぞかせた。【南谷竜則】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

ストレートを打ち込む岡本(撮影・南谷竜則)
ストレートを打ち込む岡本(撮影・南谷竜則)