“両方の東京ドーム”を知っているからこその言葉だ。14年に巨人を退団後、今季まで三菱パワーで現役を続けた加治前竜一さん(35)は話した。

「日本シリーズをどかしても…じゃないですけど、こういう状況でも東京ドームで試合ができる喜びを感じてプレーして欲しいですね。超満員にはならないから物足りないかも知れないけど、東京ドームでやることは変わりない。誇り、喜びを持って欲しい」

都市対抗野球が今年も東京ドームで開幕した。従来は7月開催だが、東京五輪のため11月の日本選手権(京セラドーム大阪)と日程を入れ替えていた。だが、新型コロナウイルスで五輪は延期、日本選手権も中止に。そんな中、都市対抗だけは始まった。

観客は1万人までに制限され、名物の応援合戦もなし。同時期の開催となった日本シリーズには東京ドームを本拠地とする巨人が進んだが、都市対抗はそのまま。巨人は京セラドームに移った。

加治前さんはルーキーだった08年、西武との日本シリーズを経験した。「ものすごい緊張感。できれば試合に出たくない。僕みたいな小者は、そう思いました」と笑って振り返る。一方で、都市対抗にも4回出た。「会社では『都市対抗に行く』とは言わず『ドームに行く』って言うんです。都市対抗イコール、東京ドーム。社員の皆さんにとって、東京ドームに応援に行くことに意味がある」と強調した。

「巨人ファンは残念でしょうけど」と思いやりつつ、続けた。「プロと社会人、どっちの格が上とは言えない。都市対抗は東京ドーム、というのは理解してもらいたい」。大切なのは、コロナ禍の晩秋、東京ドームに球音が響いたこと。もう1つの最高峰、開幕戦を見ながら思った。【古川真弥】(日刊スポーツ・コム/スポーツコラム「WeLoveSports」)

08年6月6日、ロッテ戦でサヨナラ本塁打を放つ巨人加治前
08年6月6日、ロッテ戦でサヨナラ本塁打を放つ巨人加治前