昨年末から今年初めは高校ラグビー漬けだった。第100回の記念大会とあって、史上最多63校が出場した。毎年、12月27、28日の1回戦は27日が8試合、28日が11試合だが、今回は15試合と16試合もあった。新型コロナウイルスの感染拡大対策で取材人数、時間が制限されたこともあり、なおさら忙しかった。

それでも高校ラグビーは楽しい。ラグビー経験者じゃないし、コラプシングやノット・ロール・アウェーなどの反則は見ていてよくわからない。そんなぼんくら担当でも、88年度大会から合計20大会近く見て来て、今も楽しい。

戦後6校目の連覇を成した桐蔭学園・藤原秀之監督(53)は「正直、ここ(決勝)まで来れるなんて、1カ月前には想像もできなかったです」と言った。あの強さを見て、こうやって字にして読むと「謙遜」にしか思えないのだが、目を見て、直にその言葉を聞くと心底納得した。

決勝で完敗した京都成章・湯浅泰正監督(56)は「こんなんじゃあかんのでしょうが、今は満足してるんです」と言った。穏やかな笑顔を見ると、それ以上聞くのは無粋に思えた。

開幕前だった。常翔学園の野上友一監督(62)に話を聞いた。大会通算96勝で準決勝まで勝ち抜けば、132勝の秋田工、105勝の天理に続く100勝の大台に届く-。その話題に及んだ時だ。

「天理にはまだ追いつけんの? 秋田工は…そら届かんか」。野上監督はいたずらっぽく笑った後、真顔になった。「僕が(当時の大工大高に)入った時は、まだ3回目の花園やった。長年、花園でやれてる。勝ち続けてる。それがええやんか」。

すべては「荒川流」だ。名将・故荒川博司氏に指導を受け、コーチとして付き、90年度から後を継ぎ、監督になった。ある時、花園で負けた。「荒川先生に何て言おう」。宿舎に戻り、師の部屋に行くとコップにビールをつがれ、スパッと言われた。「そんなもん勝とう思て勝てるなら、何十連覇もしとるわ。試行錯誤の連続や。オマエは間違うてへん。思うようにやったらええ」-。

野上監督は言う。「先生はよう言うてはった。『悪口言うな、陰口言うな、本人に言え』と。そういうやり方やねん。正々堂々とやる。当たり前を当たり前にする。かっこええがな。それが好きやねん」。

昨年3月、コロナ禍にあって、野上監督はオンライン飲み会を始めた。参加者は桐蔭学園・藤原監督、京都成章・湯浅監督、東福岡の藤田雄一郎監督(48)、東海大仰星・湯浅大智監督(39)ら15~20人の指導者が月に1度ほど、パソコンの画面に集い、グラス片手にいろんな話に花を咲かせた。野上監督は若者顔負けの企画意図を「みんな、仲間やから」と説明した。

前に出ようと、それを止めようと体をぶつけ合う。ボールを前に投げず、15人が体を張ってつなぐ。誰が見ても痛くて、しんどい競技がラグビーだ。その伝統をつなげていく人々の多くは、どこか大事な部分が似てくるのではないか。

飾らない。うそがない。そんな人が多い高校ラグビーを取材すると、心がきれいになる気がします。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)