世界各地で新型コロナウイルスが猛威をふるっています。1月に渡米したときには、世界中がこのような状況になることは想像できませんでした。多くの方が大変な時期を過ごしていると思いますが、今は感染しないように、感染させないように気をつけ、命を最優先に考えて行動することが大事だと思います。この記事によってゴルファーの皆さんの気が少しでも紛れれば幸いです。事態の一刻も早い終息を心から祈っています。

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■ティーチングサミットでの小さな変化

ゴルフティーチングに関して熱弁するレッドベター
ゴルフティーチングに関して熱弁するレッドベター

米フロリダ州オーランドのチャンピオンズゲートに、世界的ティーチングプロ、デビッド・レッドベターが経営する「デビッド・レッドベター・ゴルフアカデミー」の本拠地がある。毎年1月に行われる世界最大級のゴルフ用品展示会「PGAショー」に合わせて、アカデミーでは「レッドベター・ティーチング・サミット」が開催される。

世界34カ所にあるレッドベター・アカデミーのインストラクター教育のためのティーチング講習会なのだが、私は特別に外部招待者として参加させてもらっている。そのため、毎年1月に渡米し、ティーチングサミットとPGAショーに参加するのが恒例となっている。


マーク・スウィーニーのエイムポイントを学ぶ参加者
マーク・スウィーニーのエイムポイントを学ぶ参加者

そんなレッドベター・ティーチング・サミットだが、今年は少し変化があった。それはアカデミー外の一般のインストラクターにも参加枠を開放し、レッドベター・アカデミーのティーチングノウハウを外部に提供していたのだ。さらに講師として、外部のコーチが招かれていたことも新しい試みだ。グリーンの傾斜を読む「エイムポイント」を考案したマーク・スウィーニーが、エイムポイントの考え方や使い方などをレクチャーし、ショートゲームとパッティングのティーチングに定評のある、スタン・アトレーがパッティングに関するレクチャーを行っていた。


■アカデミー内で進む分業化と専門化

今年のレッドベター・ティーチング・サミットを見て、強く感じたのはアカデミー内での分業化が進み、より専門性を増していたことだ。

現在、レッドベター・アカデミーは世界15都市以上に展開し、世界中のプロやアマチュアの指導を行っている。技術レベルだけではなく、年齢や性別など多種多様なゴルファーを指導するため、パフォーマンスコーチング部門、ジュニア部門、フィットネス部門、メンタル部門といった分野について、それぞれの専門家によって体系化や理論化が行われ、そのノウハウを現場スタッフが実践し、フィードバックを行っている。ティーチングスタッフとそれぞれの専門家が連携し、クライアントを向上させるためのシステムが確立されているのだ。


レッドベターがライブレッスンを行いティーチングノウハウを伝える
レッドベターがライブレッスンを行いティーチングノウハウを伝える

近年の欧米におけるゴルフティーチングは技術レベルが高度になり、もはや1人ですべての分野の技術を教えることは不可能なほど専門性が高まっている。特にパッティングやアプローチなど専門のコーチがいる分野の進化には目を見張るものがある。スウィーニーやアトレーなどに講義を依頼したのは、専門性の高い分野のノウハウを取り入れる取り組みの1つだろう。さらに、外部コーチにもティーチングサミット開放することで、コーチ同士のネットワークを広げ、より深いディスカッションを行うことができるメリットもある。

90年代に一世を風靡した「アスレチック・スイング」や近年発表した「Aスイング」で知られるように、レッドベターはスイングの専門家だ。その周りを各分野のスペシャリストがサポートすることで、レッドベター王国は今まで以上の発展を目指しているのだ。


レッドベターは今年68歳を迎える。現在もコーチとして第一線に立ち、カブレラ・ベロやアン・ビョンフンなど多数のPGAツアー・LPGAツアー選手の指導を行っている。60代も半ばを過ぎると、社会の変化についていけずに諦めて引退する人、最新の理論は若い人に任せて一線から退く人も多い。しかし、レッドベターはゴルフバイオメカニクスの専門家、J・Jリベットと地面反力に関する共同研究を行い、今なお最新の知見を持ってスイング理論を極めようとしている。アカデミーの専門化が進んでいるのは、レッドベターの飽くなき探究心の現れだ。


振り子型パッティングストロークに関して講義をするスタン・アトレー
振り子型パッティングストロークに関して講義をするスタン・アトレー

「人を導く立場の者は、学び続けなければいけない」

リニューアルされたアカデミーの壁には、レッドベターの直筆のメッセージが刻まれていた。スイング技術だけではなく、指導者としての哲学や姿勢を示してくれるレッドベター。進化し続けるレジェンドは、今後もゴルフ界に多大な影響を与え続けるだろう。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/