スイングで重要なのは、体とクラブのどちらなのか

スイングで重要なのは、体の動きなのか、クラブの動きなのか。これはニワトリと卵のような話だが、理想のスイングを追求するうえで根本的な問題だ。

: インストラクター向けにバイオメカニクスを指導するヤン・フー・クォン教授

体を適切に使うことができれば、クラブもそれに合わせて正しい軌道を描く。そう考えるのであれば、体の動きが大事ということになる。しかし、クラブのフェースの向きやシャフトの角度だけではなく、クラブにかかるさまざまな力を考慮してスイングしなければならないのであれば、クラブの動きを第一に考えてスイングすることが重要になる。

さて、みなさんはどちらの考え方が正しいと思われるだろうか。

■それぞれの研究者が持つ独自の視点

欧米で行われているスイング研究は大学などの研究機関で行われる。フォースプレートやハイスピードカメラなど数千万円から数億単位の機材を使い、体とクラブにかかるすべてのフォースやトルクを計測して数値化していく。同じスイング研究の分野でも、研究者の視点が違うことで、研究結果に違いが出る。大別すると、体の動きに関する研究とクラブの動きに関する研究だ。

体の動きに関する研究において世界的に評価が高いのが、地面反力の研究で有名なテキサス女子大学のヤン・フー・クォン教授だ。タイガー・ウッズの元コーチ、クリス・コモとともに、体が生み出すフォースやトルクがどのようにクラブに伝わるかを研究してきた。多くのトッププロのスイングデータを計測し、飛距離が出て再現性の高いスイングを行うために何が必要かを明らかにした。世界中で1000名近いインストラクターがクォン教授のプログラムを受講しており、ゴルフバイオメカニクスの権威的存在だ。

一方、クラブを主体として考えているコーチの代表格が、「ジェイコブス3D」で知られるマイケル・ジェイコブスだ。

ジェイコブスはスティーブン・ネスビ教授とともに、クラブに加わるフォースやトルクを計測機器を使って解析してきた。そして、スイング中のクラブにかかる力を立体的に視覚化した。アルファ、ベータ、ガンマと呼ばれるそれぞれ3つのフォースとトルクがクラブにかかることを明らかにし、ゴルフスイングにどのような影響を及ぼすのかを明らかにした。ゴルフクラブは先端に面のあるヘッドがあり、重心の位置もシャフトの中央より先端側にある特殊な形をしている。ただの棒のように体から伝わった力が、そのまま単純にボールに伝わるわけではないため、クラブ自体にかかるフォースやトルクに関する知識がなければ適切なティーチングをすることはできない。

: マイケル・ジェイコブス（右）と筆者

もちろん、クォン教授もクラブに関する研究を行っているし、ジェイコブスも体の動きに関しての研究を行っている。あくまで得意分野や興味の対象の違いが研究内容に反映されているということだ。

■大切なのは体とクラブのバランスと連動

ゴルフティーチングにおいて、体とクラブのどちらかが大事だと一方の正当性を主張する指導者もいるようだ。両者の視点は異なっているがどちらにしても、効率的にエネルギーをボールに伝えるという根本的な考え方は同じだ。同じ命題に向かって、違った視点からアプローチしているにすぎない。

実際には、体の動きがクラブをコントロールするといってもクラブの動きを無視することはできない。クラブにかかる力は体から影響を受ける以外にも、遠心力等のさまざまな外力の影響を受ける。さまざまな力がかかるクラブの動きを体の動きだけで制御することはできない。一方で、クラブの動きが大切だといっても、体の仕組みや動きがわからなければ、効率的にエネルギーを生み出せないし、動作の再現性も損なわれる。クラブの動きばかり考えた結果、手打ちになって飛距離も方向性も失う人は多い。体とクラブを連動させずに、飛距離と再現性を両立させることは困難であると言わざるを得ないだろう。