【オーガスタ=松末守司】タイガー・ウッズ(43=米国)が完全復活した。2位から出て6バーディー、4ボギーの70で回り、通算13アンダー275。11年ぶりのメジャー制覇、05年以来5度目の大会Vを果たした。18勝のジャック・ニクラウスに次ぐメジャー優勝は15勝目。米ツアー優勝回数は、歴代最多のサム・スニードにあと1勝に迫る通算81勝とした。

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すべての視線が最終18番ホールのグリーン上に注がれた。ウッズがパットの構えに入ると静寂に包まれる。パッティングの音が響き、球がカップに吸い込まれると聖地オーガスタにタイガー・コールがこだました。それをあおるかのように、パトロンに向かって両手を掲げ、完全復活をアピール。11年ぶりのメジャー制覇。誰もが待ち望んだ瞬間は、初めてメジャー制覇した原点の地で成し遂げた。「カムバックを果たしてマスターズで優勝できるのは最高」と満足げに笑った。

赤のシャツに黒のズボンという「勝負服」に身を包んで挑んだ最終日。ボギーが先行した前半の7番。第2打をピン側約60センチにつけてバーディーを奪うと8番もバーディーとして流れをつかんだ。後半は一時、2打差に10人前後がひしめく大混戦だったが、15番(パー5)で2オンからバーディーを奪って抜け出し、16番(パー3)では第1打を1・2メートルにぴたりとつけ、勝負を決めた。

マスターズを初制覇した97年から22年の時が過ぎた。最後に優勝した05年から、14年のブランクはニクラウスの11年を抜き最長。43歳での優勝もニクラウスの46歳に次ぐ。世界ランキングは5年ぶりのトップ10となる6位に返り咲いた。

膝痛に始まり、不倫の発覚、離婚で、スポンサー契約は次々と終了し、多くの人が去った。14年からは腰痛に悩まされ4度の手術を受けた。「引退も考えた」ほどの悪夢の日々だったが、昨年の全英OPで6位、全米プロで2位とトップシーンに戻り、ツアー最終戦で80勝目を手にした。

厳しい優勝争いを「だから髪が薄くなってるんだよ」と笑い飛ばすが、パッティングの練習をしすぎると背中に痛みが出るなど体力の衰えは隠せない。以前のように力で圧倒するような姿はないが、経験という武器がある。悪天候の影響でスタート時間が早まるなど、変化があっても動揺はしなかった。「このコースをプレーする方法として頭に小さな図書館を持っている」と胸を張った。

過去14度のメジャー制覇はいずれも最終日首位から成し遂げたもの。今回は初めて逆転での戴冠と、新たな一面をみせた。辛い日々しか知らない長男のチャーリーアクセル君(10)、長女のサムアレクシスさん(11)に勝つ姿を見せ「家族は諦めずに戦った僕をきっと誇りに思ってくれる」とうれしそうだった。失ったものもあるが、新たに手にしたものもある。タイガー伝説の新章が、劇的に幕を開けた。