石川遼が涙の逆転V「夢なのか」イップス&ケガ克服

プレーオフ1ホール目で優勝を決めるイーグルパットを沈め雄たけびを上げる石川遼(撮影・今浪浩三)

<男子ゴルフ:日本プロ選手権>◇最終日◇7日◇鹿児島・いぶすきGC(7150ヤード、パー70)◇賞金総額1億5000万円(優勝3000万円)

石川遼(27=CASIO)が、涙の国内メジャー初制覇を飾った。九州南部で続いた大雨の影響で決勝の2ラウンド(R)分となる1日36ホールに臨み、一時は首位と7打差まで後退。それでも奇跡の追い上げで、35ホール目で首位黄重坤(ハン・ジュンゴン、27=韓国)を捉え、通算13アンダーの269で並んだプレーオフ(PO)1ホール目に4メートルのイーグルパットを沈めて劇的勝利。5年のシード権を獲得し、20年東京オリンピック(五輪)出場と米ツアー再挑戦を目標に掲げた。ツアー優勝は3年ぶり通算15勝目。

これは夢か、現実か。奇跡のドラマが完結した瞬間、石川は絶叫し涙をにじませた。この日、37ホール目となったPO。9時間11分の死闘に決着をつけたのは、18番パー5での4メートルのイーグルパットだった。第1打は右のカート道に当たり、あわやOBだったが、フェアウエー中央に跳ね返ってきた。1度は優勝が絶望的になりながら、最後の最後まで、運は石川に味方をした。

「信じられません。今までの優勝で一番興奮した。落ちるところまで落ちて、優勝は不可能だと思っていた。あんなにひどい内容でもあと20ホール以上、回らないといけなかった。こんなはずはないと思う自分と闘っていた。これは夢なのか、どこか、遠くにいる感じがします」

何度も諦めた。午前の第3R。一時は単独首位に立ちながら4番でボギー、5番から2連続ダブルボギー。3ホールで5つスコアを落とした。さらに後半の12番で2連続ボギーを打った時点で通算5アンダーまで後退。首位と7打差。どん底に落ちたその時、リーダーボードが視界に入った。

「見たくなかったけど見えてしまった。トップが12アンダー。(石川より1つ上の)6アンダーが二十何位かだった。苦痛でした」

そこから奇跡が起きた。アイアンを立て直し、終盤の3連続バーディーで首位と4打差6位で第3Rを終了。午後の第4Rへとつなげた。

夕暮れの残り3ホールで、首位黄とは3打差あった。16番をバーディーで2打差。続く17番パー3で、黄が放ったティーショットはグリーンに乗りながら傾斜で池に落球。相手がダボとし、ついに7打差から追いつきPOまでもつれた。

17年に米ツアー出場権を失い、昨年はドライバーのイップス、今年は腰にヘルニアの症状が出て、5月の中日クラウンズで初めて棄権。試合から遠ざかった。

「自信をつけるのは簡単ではないが、自信を失うのはあっという間。だから練習をするしかなかった。今年までしかシード権がなくて、生涯獲得賞金の出場資格まで考えた自分がいた」

15歳だった07年マンシングウェアKSB杯で、1日36ホールを戦い最年少優勝を飾った。12年が過ぎ、過酷な1日37ホールの末に悲願の国内メジャー初制覇を達成。27歳になった今でも、枯れない夢がある。

「富士山より高い山に登りたい。エベレストに登ってやると思うことが大事。これから、8000メートル以上を登らないといけない。日本代表もつかみにいく」

東京五輪出場と米ツアー再挑戦へ。眼前に広がる開聞岳に沈む夕日が、スポットライトのように、石川を照らした。【益子浩一】