渋野ミラクルV 原ら仲間支えに全英女王の重圧解放

デサントレディース東海クラシック最終日 トロフィーを手に笑顔を見せるベストアマ受賞の安田祐香(左)と優勝した渋野日向子(右)(撮影・森本幸一)

<女子ゴルフ:デサントレディース東海クラシック>◇最終日◇22日◇愛知・新南愛知CC美浜C(6437ヤード、パー72)◇賞金8000万円(優勝1440万円)

AIG全英女子オープン覇者の渋野日向子(20=RSK山陽放送)が、奇跡の大逆転優勝を果たした。

20位から出て8バーディー、ノーボギーの64で通算13アンダー、203で8打差をひっくり返した。8打差逆転Vは88年の日本女子ツアー制度施行後、2番目に並ぶ記録。国内ツアー3勝目で史上2番目の速さで獲得賞金1億円に到達した。ルーキーイヤーでの達成は宮里藍さん以来、2人目の快挙。偉大な先輩に肩を並べ、賞金女王へ突き進む。

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トレードマークのスマイルが広がった。1打差で追うテレサ・ルーが最終18番にきた時、渋野はパット練習場にいた。プレーオフに備え、黙々とパターを打ち込む手は震える。気にしないと思っても、第2打が3メートルにつくと大歓声がいやでも耳に入ってくる。緊張の中、しばらく沈黙が続いた数分後、「外した!」。藤野キャディーが渋野に歩み寄り、優勝を告げる。「おめでとう」。取り囲んで見守っていたギャラリーからも拍手がわき起こり、ぺこりと頭を下げた。

ツアー史上2番目の8打差をひっくり返す大逆転劇。ルーキーイヤーでは、宮里藍以来2人目の1億円到達と新たな勲章が加わった。「自分でもびっくり。今年は自分でも予想できない結果ばかり」と信じられない表情で話した。過去3勝は全て1、2位から最終日をスタート。ひと味違う逆転劇だった。

スマイル・チャージだった。4番で8メートルのバーディーパットを沈めたのが合図。5、6番も決め3連続バーディーを奪取し、9、10番でもスコアを伸ばした。前半まったく吹かなかった風が、後半から強くなり、上位組が伸びあぐねても、勢いは止まらない。12、15番でバーディーを奪ってついに首位をとらえた。16番パー3の第2打では、グリーン左奥の深いラフから直接カップイン。満面の笑みでガッツポーズをつくり、ミラクルが完結した。「こんなに伸びるとは思わなかった」と振り返った。

葛藤と闘ってきた。全英制覇後、加速度的に変わっていく環境についていけなくなった。自分のゴルフ、そして、笑顔さえも失いかけたが、救ってくれたのは、苦しみを分かち合える黄金世代の仲間だった。第1ラウンドで原英莉花、新垣比菜と回り、純粋に「楽しむ」ことを思い出し、本来の攻めのゴルフも取り戻した。「勝ってからは自分にプレッシャーをかけていたのかな。この試合からありのままの自分で頑張っていきたいと思った」。

新たな目標に「賞金女王」を掲げた。「1試合1試合が大事になってくる」と気を引き締める。今季ツアーは残り10戦。真のスマイルを取り戻した全英女王が、新たなステージに向かっていく。【松末守司】

○…「運命的」に2人は出会った。藤野啓祐キャディー(46)は、今回初めてバッグを担いだ。渋野から衝撃を受けたのは、4月のバンテリン・レディース・オープンだった。第1ラウンドで「81」をたたき106位から第2ラウンドで66を出し巻き返して予選を通過。最終日に同組の他選手のバックを担いでいたが、そのセンスの高さにほれ込み「機会があったら連絡させてくれ」と、まだ無名だった渋野に声をかけた。

その後、国内で2勝、全英オープンを制した後、ようやくタッグが実現した。「スーパースターになる人が持っているオーラがある。突風が吹いてもフォームが崩れないし、心も体も強い」と絶賛し、将来性にも太鼓判を押していた。

◆渋野が達成した記録 24試合目での生涯獲得賞金1億円到達は、畑岡奈紗(17試合)に次ぐ、史上2番目のスピード記録で宮里藍の27試合を抜いた。また、20歳311日での達成は、19歳141日で達成した宮里藍に次ぐ年少記録。過去のツアー史上最大差の逆転優勝は02年の広済堂レディースカップでの藤野オリエの11打差で、8打差の逆転劇はそれに次ぐ2番目の差。最終日の「64」はレギュラーツアーでの自己ベスト(プライベートでは63)。