選手からパワーハラスメントを告発された日本体操協会塚原千恵子女子強化本部長(71)、夫の塚原光男副会長(70)への風当たりが強くなっている。そんな中、同夫妻が経営する「朝日生命体操クラブ」に一時期所属していたOGの1人が、4日までに日刊スポーツの取材に応じ、千恵子氏について赤裸々に語った。温かくも厳しく指導してもらったと感謝する一方で、疑問を持つことも多かったと明かした。【取材・構成、高場泉穂】

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元体操女子選手のAさんは過去に朝日生命クラブに所属し、宮川紗江選手(18)にパワハラを告発されている千恵子氏に数年間体操を教わっていた。「千恵子先生にはお世話になりました。たたくつもりはありませんが…」と前置きした上で、自身が現役時代に経験したことを語った。

◆引き抜き疑惑は?

8月29日の会見で宮川選手は朝日生命へ勧誘されたと主張。その後、過去に他選手の引き抜きがあったという一部報道もあるが、Aさんは「引き抜きという形ではないと思います」と話した。同クラブに女子の有力選手が移籍してくる例は多い。だが、それは「日本であれだけ女子の練習環境が整っているところがないからです」。男女の器具をそろえる専用体育館があるほか、寮も備え、学校の面倒も見てくれるなど体操に集中できる環境が整っている。ここで練習することが五輪出場への近道だと思い、「自ら志願して転籍する選手がほとんどだと思います」とした。

◆言葉は怖い?

ただ、その指導にはいい面も悪い面もあったとAさんは振り返る。勝つため、強くなるために千恵子氏は練習中も「このままでは強くなれないよ」など叱咤(しった)激励の言葉を多くかけるという。宮川選手は今回、「五輪に出られなくなるわよ」などといった言葉のハラスメントを訴えている。Aさんは「朝日生命で毎日千恵子先生の指導を受けていれば、慣れているし、当たり前のことと受け止められる。だが、急に言われたり、今回のように密室で1時間言われる状況であれば怖いと思うのは仕方ないと思う」と話した。

◆指導方法は?

「すごく古い教えだったと思います」とAさんは振り返った。例えば体形管理について。千恵子氏からは「食べなければいいじゃないの」と、極力食事量を少なくするよう求められたという。ケーキなど甘いものはNG。ごちそうを出されるからと実家に帰るのも控えさせられた。「そうしないと体形維持ができないという部分も確かにあるが、中には疲労骨折や拒食症で競技ができなくなる選手もいました」。また、恋愛のみならず男子と接触することも「胸が大きくなるから、とだめでした」と明かした。そうした考えの古さについて「ガラケーでもなく、ポケベル。千恵子先生の言ったことを一方的に受け取るしかできない」と表現した。

◆OGの希望は?

なぜこれまで訴える選手がいなかったのか? との問いには「声をあげたところで何も変わらない、と多くの人が思っているからだと思います」。現日本代表候補6人(うち宮川選手は辞退)のうち朝日生命所属は杉原愛子選手1人。その他5人はそれぞれのコーチの指導で競技力を高めてきており、「それが静かな反発」とも指摘する。「3食をしっかり食べ、勉強など普通の生活を送り、強くなる方法もあるはず。女子の練習環境がより整い、選択肢が増えることを望みます。体操が世間により開かれ、体操をすることがかっこいいと思える世の中になってほしい」とAさんは希望を語った。

<取材後記>

「千恵子先生をたたくつもりはない」というAさんの思いは理解できる。体操を担当してわずか2年ではあるが、取材を通じて塚原氏と接し、その豪快で人懐こい人柄に引かれてさえいた。男子との接触を禁ずるなど極端だなと思う指導もすべては選手を思ってのこと。Aさんは「すべて悪気はないんですよね」とも話した。塚原氏が正しいと思ってきた指導がいつの間にか時代の流れ、選手の考えに合わなくなってきていた。それに本人が気付けなかったこと、周囲の人が指摘できなかったことが今回の問題を生んだのだとあらためて思った。